精神・発達障がい者を支援するジョブコーチは…

 厚生労働省の調査*7 では、訪問型ジョブコーチの支援対象で最も多い障がい種別は精神障がい(発達障がいを除く)となっている。配置型ジョブコーチの支援対象の割合*8 も、この10年間で知的障がいが減り(2010年=53.3%→2019年=28.2%)、精神・発達障がいが増えている(精神障がい/2010年=21.1%→2019年=26.9%、発達障がい/2010年=15.5%→2019年=34.9%)。一口に「ジョブコーチ」と括っても、その障がい種別によって、果たすべき役割に違いがあるのではないか?

*7「職場適応援助者(ジョブコーチ)の現状と課題に関するアンケート調査」(令和2年8月実施)
*8 厚生労働省「ジョブコーチ支援制度と養成研修の現状等について(令和2年8月)」から

清澤 歴史をさかのぼれば、ジョブコーチというものは、知的障がい者の職場適応を前提として作られた感があります。知的障がいのある方は、ある程度は症状が安定(固定)しているので、「どういうふうに仕事を行っていけばいいか」という、作業に関する支援に重きを置く“就労後のジョブコーチ”でも問題ないわけです。

 しかし、近年は、精神・発達障がい者の就労が増えています。精神・発達障がいのある方は症状が安定していないことが多く、だからこそ、ジョブコーチの「質」を変えていくべきでしょう。

 厚生労働省の“職場適応援助者養成研修のあり方に関する研究会”でもこれからは知的障がい者よりも精神障がい者の支援が増加する傾向にあり、これまでの作業支援から、相談支援が増加していくという意見があります。

 では、相談スキルを向上させればよいかというとそうではありません。精神・発達障がい者の就労支援では本人支援以上に企業支援が重要となってくるからです。精神疾患は、ある程度の安定はありますが、少しのストレスで調子を崩す場合も多く、「いまは安定していても、調子を崩す可能性があります」ということをジョブコーチは企業に伝えなければいけません。企業側は、ジョブコーチに、「調子を崩すときはどういう場合ですか? 周りから見て、どういう状態ですか? そのときに会社はどうしたらいいですか?」と尋ねるとよいでしょう。

「この方は、こういうストレスがかかると調子を崩す傾向にありますが、ある程度は本人で対処できます。ただ、本人が気づかずに表情が硬くなるときがありますので、そのときは本人に声をかけてください。そうすることで本人が気づき、しかるべき対処を行うことでリカバリーできる場合があります」といったやりとりを、企業の担当者とジョブコーチの間でできれば、障がいのある方の職場定着率は上がっていくはずです。

 つまり今後、精神・発達障がい者が増加していく障がい者雇用において、精神・発達障がい者の雇用定着のノウハウを企業が構築できる支援を行うジョブコーチが必要となってきます。

(次稿へ続く)

※本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティマガジン「オリイジン2020」からの転載記事「ダイバーシティが導く、誰もが働きやすく、誰もが活躍できる社会」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。