鈴村喜久男「出版界も返本退治に“かんばん”やったらどうか」

 面白い場面を思い起こす。大野耐一の一番弟子の鈴村喜久男(1927~1999)は、大野も一目置く「現場の天才」で恐いほどの個性の持ち主だったが、随所に見せるユーモアは格別。深慮遠謀なる戦略で大野耐一を引っ張り出したダイヤモンド社の経営者、編集者を前にして、こう言ったのだ。

「『トヨタ式』の本格本を出すのだから、これを機にダイヤモンド社も“かんばん方式”やったらどうか。返本はムダの固まり」と。出版社の重役氏は咄嗟に答えられず苦笑するばかり。すかさず発した鈴村の「オヤジさんの本は売れ残らないから、“かんばん”は必要ないな」の言葉に一同、爆笑した。

 当時、大野耐一と鈴村喜久男の側で鍛えられていた若き張富士夫(現トヨタ自動車会長、1937年生まれ)が、『トヨタ生産方式』を完成させる過程で編集者のように、大野の手となり足となって原稿の修正、追加に八面六臂の活躍をしたことを記しておく。

「言葉や文字で表現できない、人間独自の創造の知を書いてみたい。モノをつくる方法やシステムは生産現場の試行錯誤で日々、進化しているので、書き留めるのは不可能だが、物事の基本になる原則は何とか書いて伝えよう」と大野は挑んだ。「暗黙知」から「明示知」への確固たる決意だった。

 なおジャーナリズムと「トヨタ生産方式」の関係で言うと、「ジャスト・イン・タイム」にニュースを提供する新聞社が出版社に先んじて、新聞用紙の搬入と印刷工程を含むトータルな「ジャスト・イン・タイム・マネジメント」を享受していることを伝えておきたい。新聞記者はこの現状を知っているのだろうか。


◆大野耐一生誕100年記念フォーラムのお知らせ◆

トヨタ生産方式の基礎を築いた故大野耐一氏が、今年で生誕100年を迎えるのを記念して、21世紀「ものづくり思想」の探求をテーマとしたフォーラムが開催されます。

日 時|2012年10月15日(月)午後1時~3時30分(開場12時)
会 場|ホテルグランドパレス 「ダイヤモンド」ルーム
参加費|10,000円(税込)

詳細とお申込みは、こちらをクリックしてください。


◆ダイヤモンド社のロングセラーのご紹介◆

トヨタ生産方式――脱規模の経営をめざして
大野耐一著、B6判上製、248頁、定価(本体1400円+税)

30年以上も読み継がれる世界的な経営バイブル!
トヨタ生産方式の真髄とは、日本の土着の思想をベースにして生まれ、欧米ですでに確立していた自動車工業の大量生産に対抗し生き残るため、永年にわたって試行錯誤を繰り返した末に、何とか目途のついた生産方式ならびに生産管理方式である。
この純粋に日本オリジナルの生産システムをまとめあげたプロデューサーこそ、本書の著者大野耐一である。
1912年(明治45年)生まれの著者は、新しい経営思想を構想し、構築し、それを実践する指導力を備えた、たぐいまれなる産業人であった。
1978年に弊社から刊行された本書『トヨタ生産方式』は、2012年現在109刷を数える。経営書は流行り廃りの激しい生ものであるだけに、刷数が三桁に達するものは他にほとんど例をみない。この事実こそ、本書が世界的な経営のバイブルとして長く読み継がれてきた証である。
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