すべての人が
代替されにくい職へ移る必要はない

 本稿では、だれの仕事がAIなどによって代替可能であるのかを検証してきた。この事実を私たちはどのように解釈すればいいだろうか。

 結果を単純に解釈すれば、代替されそうな職は危険だから、そのような職に就く人は代替されにくい職へ移動すべだという政策提言ができそうだ。

 しかし、実はそうとも限らない。代替されやすい職種があるといっても、仕事が完全に代替されるためには、将来的に大規模な技術革新が起こらなければならないし、それと同時に、その技術が相当に安価に導入されなければならず、これらの職が10年や20年といったスパンで消滅するわけではないからである。さらにいえば、代替される職種から代替されない職種への移行は、国全体で行われればよいのであって、一人ひとりがそのような職業転換を伴う必要は必ずしもない。

 AI技術者のようなこれから興隆する職種には、これから長いキャリアが待ち受けている若年層が就くだろう。そして、ドライバーや配達業、マンション管理などの仕事の一部には徐々にAIが進出しつつも、熟練したシニアが仕事の中心を担うのではないだろうか。

「統計で考える働き方の未来」『統計で考える働き方の未来』坂本貴志著(ちくま新書)

 たとえば、マンション管理においては、フロアの清掃業務やごみの分別業務などを行うのはAIになるだろうが、その一方で、こうした機械の管理のほか、住民からの個別の声を拾い上げて実際のサービスに反映するのはシニア労働者の役割になる。このようにAIとの分業を適切に行いつつ、一人ひとりのライフサイクルのなかでこういった職業のすみわけが行われれば、これからの技術革新による職業構成の変化に十分対応することができるのだ。

 おそらく、AIなどによる仕事の代替は、多くの人たちが思っているより、中長期的に緩やかに起こっていくだろう。私たちが考えなければならないのは、どのような仕事がなくなるのかを心配することではなく、こうした技術革新をいかにしてスピード感をもって実現していくかということになるはずだ。今後、日本社会は更なる少子高齢化のなか、深刻な労働力不足に直面するのはほぼ間違いないからである。

 機械によって代替できる仕事の範囲を広げて、実際にそれを実現させていく。その道筋を描くことが、今後の日本経済の発展にとって必要不可欠な視点となるはずだ。

(リクルートワークス研究所 研究員 坂本貴志)