企業は障がい者雇用の目的を明確にしていくこと

 ジョブコーチによる、障がい特性の理解が乏しい場合、就労中の当人がどういうときに調子を崩しやすいかを把握することは難しいだろう。そのため、特に、精神・発達障がい者を支援するジョブコーチには、医療機関とのシームレスな連携が必要と思われるが、実状はどうなっているのだろう。

清澤 精神・発達障がいのある方と就労後に向き合うジョブコーチが障がい特性に対して不十分な認識だったり、医療機関が障がい者の就労状況をあまり把握していない場合は、両者の間に齟齬(そご)が生まれがちです。医療側は治療前提なので、障がい者の職場(仕事)のことよりも症状の変化に目を向け、障がいのある就労者が調子を崩したときに、「休職させましょう」とすぐに結論づける場合もあります。一方、ジョブコーチは就労の継続を望むので、結果的に、連携がうまくいかなくなってしまうケースも散見します。

 これからのジョブコーチは就労後からの支援ではなく、就労前から就労後までシームレスに関わる必要があります。これは特に精神・発達障がい者の支援では必須だと言って良いでしょう。精神・発達障がいの場合は、症状が安定しているように見えて不安定な部分があり、就労前から関わることで本人の症状理解や対処スキル、どんなときに調子を崩しやすいのか、そのときのサインはどのようなものなのかを把握することができます。「連携」という名の、支援機関がバトンをつないでいく支援では、情報の共有に時間がかかり、情報が錯綜(さくそう)してしまう恐れがあります。それではきちんとしたフォローアップができません。だからこそ、シームレスな支援のできるジョブコーチが望まれます。

 そして、知識を担保する研修ではなく、質を担保する研修とともに、誰でもジョブコーチと名乗れてしまう現状も変えていくべきです。専門疾患別の知識と支援のノウハウを持つジョブコーチの育成は厚生労働省の研究会*1 でも模索されており、ジョブコーチは「あの人だからできる」「あの人でないとできない」という名人芸的なものではなく、体系的なスキルと知識のうえに成り立つものだと思います。

*1 厚生労働省「職場適応援助者養成研修のあり方に関する研究会」

 障害者雇用率制度における民間企業の法定雇用率は、来年2021年3月には2.3%に引き上げられる。*2

 先行き不透明なコロナ禍のなか、障がい者雇用を思うように成し得ない企業も多い状況だが……。

*2 令和2年8月21日 第98回労働政策審議会障害者雇用分科会障害者雇用率の0.1%引上げの時期について(案)[PDF形式]

清澤 まず第一に考えるべきは、数字のための雇用なのか、戦力確保のための雇用なのか、です。つまり、法定雇用率という法律に基づく数字ありきなのか、障がいのある方を戦力化していきたいのか――企業の担当者と経営陣はしっかりした意思疎通が必要で、その答え次第で、雇用管理の方法や業務の組み方が変わってきます。

 また、雇用においては、サテライトオフィスサービスを行うような外部の民間企業は使わない方が良いと私は思います。コロナ禍で人員削減があったり、テレワークが進んだりと、障がい者の雇用方法に腐心する企業が多いのは事実です。そんな状況下で、「小社がお助けします」という声にはすぐに飛びつかない方が良いでしょう。外部に頼らなくても、障がい者雇用を問題なく行うことは十分に可能です。

障がい者雇用で「ジョブコーチ」に求められる役割清澤氏が代表を務める[一般社団法人精神・発達障害者就労支援専門職育成協会]のミーティングの様子。 同協会が育成する「就労支援士(ES/employment specialist)」は、広義の「ジョブコーチ(職場適応援助者)」の役割を担うことができる人材だ