障がいのある就労者のキャリア形成を考えていく

 人材確保のために障がい者を雇用し、戦力化を目指す――そうしたビジョンを掲げることは容易だが、ジョブコーチとの密な連携も含めて、その道のりは長く、ゴールは遠いというのが、多くの企業の現実ではないか?

清澤 障がいのある方の離職理由として目立つのが「(就労の)先が見えない」というものです。実際に就業後3年くらいで転職する精神・発達障がい者が増えてきています。企業側からすると「安定して雇用継続ができているのになぜだろう」と思う方もいると思います。軽作業の継続で給料も上がらず、不満を持って離職する方も多いのです。

 また、離職理由のひとつとなる「症状の悪化」も、仕事の「キャリア形成ができないことによる不安」を原因とする場合があります。精神・発達障がいの場合、就労によって症状が安定していくことも、研究の結果として出ています。

 であれば、企業側は障がい者のキャリア形成をきちんと行っていくことが賢明です。「仕事のステップ」をジョブコーチとともに考え、そのプランの中で、賃金アップを含めた評価基準も明確にしていくこと。この「見える化」はとても重要で、ある日突然、「あなたは頑張っているから時給をアップします」と担当者が告げても、障がいのある方自身は何の頑張りが評価されたのかが分からないこともあります。障がいがありながら生活し、仕事の満足を得るためにキャリア形成は必要です。

 企業がキャリア形成とともに障がい者の雇用を進めていくにあたり、コロナ禍だからこそ変えていくべきこともあると、清澤氏は続ける。

清澤 新型コロナウイルス感染症の影響によって、障がい者の求人はかなり減っています。ハローワークでの求人も、東京都全体だと、今年(2020年)の夏の段階で、昨年より35%のマイナスで、多摩地域に限っては、前年の50%と聞いています。こうした状況で、従来のような軽作業や事務補助をメインとした雇用は改めるべきでしょう。誰でもできる業務からスタートしたとしても、それを今後もずっと続けていくのではなく、その方に向いた、その方ならではの仕事を振り分けていくことが雇用拡大のカギになります。

 障がいのある方をテレワークで雇用管理している会社も少なくありません。朝一番にZoomで対面し、「今日はこれをやります」と確認し合い、業務が終わったら、再び画面越しで次の仕事を確かめます。数時間ごとにZoomでつながるなど、対面をあらかじめ決めておく方法もあります。業務の間に問題が発生すれば、チャットやメールでやりとりしますが、マネジメントの負担が大きい場合は、企業側の担当者が複数で行うケースも見られます。そして、スキルを求める仕事を障がい者に任せていくことが職場定着のためには何よりも大切です。それに応えられる方も多く、支援機関側も、企業のそうした方向性を支持していくべきでしょう。