ビル・ゲイツとともにマイクロソフトの礎を築き、創業したアスキーを日本のIT産業の草分けに育てるなど、偉大な足跡を残しながら、その後、両社から追い出され全てを失った西和彦氏。そんな西氏の「半生」を『反省記』として著した本が大きな話題となっている。
ビル・ゲイツという世界的な成功をおさめた人物と、西氏ほど深く付き合った日本人はいないだろう。その「仕事術」を間近に観察した西氏に、ビル・ゲイツが、どのように人と付き合い、仕事をしているのかを聞いた。さらに、ビジネスの最前線を生きてきた西氏だからこそ体験した、「ビジネスの実相」「人間模様」について、生々しい本音を聞いた。(取材・構成 イイダテツヤ/撮影・疋田千里)
――ものすごく大きな成功や失敗をたくさん体験してきた西さんの『反省記』は、衝撃的なまでに面白かったです。そもそも登場人物がすごい。ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズ、稲盛和夫さん、孫正義さんなど、超一級のビジネスマンが次々に登場して、圧倒されました。中でも、マイクロソフトの礎を一緒に築いたビル・ゲイツに対する、西さんの思い入れは半端ではないですね。西さんから見て、ビル・ゲイツの仕事の仕方できわだって印象的だったことは?
とにかく、恐ろしく記憶力がいい。そんな印象が強くあります。前に言ったことは必ず覚えていて、ちょっと違うことを言ったら、「前に言ったことと違うじゃないか」と突いてくる。そこは本当にすごいと思います。
彼は仕事をしているとき、黄色いパッドにメモを取っているんですが、あれはメモを取っているというより、メモを取りながら完璧に記憶しているんです。そして、一度覚えたことは絶対忘れない。
それと、人から話を聞いても、すぐに鵜呑みにすることは絶対にせず、徹底して裏を取る。それが彼の仕事のやり方なんですよ。
それも一人ではなくて、何人もの人にチェックして、裏を取る。その人が言っていることが正しいのか、ウソはないのか。そういうところに徹底してこだわって仕事をしています。
それで、少しでも疑問を感じたら、とことん質問する。その質問にきちんと答えられなかったり、ウソがあったり、ごかましがあったら、アウト。二度と会ってはもらえません。そういう厳しさがあるタイプでした。
――怖いですね……。
僕なんかから見ると、ちょっと厳しすぎるんじゃないかなと思うこともありましたし、人間だから間違うこともあるし、「そこまで言わなくても……」と思うこともありましたけど、そういう厳しさを積み重ねていくことで、その人の信頼性を測るというか、その人間の言っていることがどれだけ信用できるかを見極めていたんでしょうね。そして、そのマネジメント力があったからこそ、マイクロソフトをあれだけの大企業に育て上げることができたのでしょう。
――なるほど。西さんから見て、ビル・ゲイツというのは人を一言で表現すると「どういう人」なんでしょうか。
一言で言うなら「戦う人」じゃないですか。
特にマイクロソフトをやっているときは、いろんな競争相手がいて、その相手と戦い、勝っていかなきゃいけないから、とにかく「戦う人」だった。
そうやって戦うことに疲れたから、近年は戦って稼いだお金を「配る人」になっていたんですよ。でも、コロナの問題が起こってからは、また「自分でなんとかするんだ」という戦闘モードに入ってるなという感じはありますね。