「未来をつくるためには勇気が必要である」とは、ドラッカーの言葉。思い切った意思決定を下すには、外部の意見を取り入れる「柔軟さ」だけでなく、信じた道を突き進む「芯の強さ」も持ち合わせていなければなりません。グロースアップキャピタルの視点から、両者の理想的なバランスについて考えます。

スタートアップ経営者は否定され続けても折れない「芯の強さ」を持てるか?Photo: Adobe Stock

「柔軟さ」と「芯の強さ」は矛盾する概念なのか?

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):前回に続き、スタートアップのトップマネジメントにとって重要だと、グロースキャピタル運営者である我々が考える素養について挙げてみたいと思います。

今回はトップマネジメントの「芯の強さ」ですね。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):前回は「柔軟さ」、その前は「誠実さ」について話をしました。「芯の強さ」は信念をしっかり持っているか否かということですが、一見すると「柔軟さ」と矛盾するような概念です。

朝倉:経営者としての姿勢、考え方の「軸」のような部分ですよね。会社を経営していると周りからいろいろなことを言われます。「そんなマーケットはないよ」「君がやっているビジネスはうまくいかないよ」と言われることもあるでしょう。そうした指摘が正しいこともあるわけですが、否定的コメントを浴び続ける中においても、自分が信じるものをいかに貫くか。周囲に流されないための軸を自分の中で持つことができるかという話です。

村上:我々が経営者の誠実さや柔軟さを重視しているというのは、前回までに話した通りです。一方で、外部の意見に振り回され、どんな意見も構わず取り入れてしまうと、それはそれで経営は安定しません。

自己過信に陥って外部の意見に耳をふさいではいけませんが、「こういう考え方もあるのでは」という外部の意見にもしっかり向き合った上で、自分の考えを保つこともまた大事なことです。こういった信念を持つことを、「芯の強さ」と表現しています。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):ニュアンスが難しいのは、単に盲目的に自説を強弁する、あるいは執着しているのとは違うということでしょう。

村上:外部と向き合う姿勢がないと、対話が一方通行になってしまいます。強い意見もしっかり受けとめて、自分の中に吸収していけるような信念を持っている経営者が理想だろうと思います。

経営者は万能ではないからこそ、ユニークであるべき

朝倉:確かに、「柔軟さ」と「芯の強さ」の兼ね合いは難しいですね。自分たちで言及しておきながら、ともすれば矛盾するような概念だとも思います。

こうした素養をチェックボックス的にすべて満たしていなければいけないというわけではありません。ただ、両者のバランスを取ることもまた重要なポイントですし、相矛盾する素養を相克できることが理想だと思います。

小林:前回話したような「柔軟さ」も持ち合わせ、外部との議論を通じて自分が信じるものをより高いレベルに昇華するような姿勢ですね。

村上:経営者というのは、すべての面で万能なわけではありません。外部の意見を柔軟に取り入れる姿勢は必要でしょう。ただ、経営者ならではの視点、24時間ずっと自分の事業や会社のことを考えて取り組んでいるからこそ深い知見と考察を持ち得るという部分が、少なからずなければならないとも思います。

朝倉:ピーター・ティールは、起業家は「賛成する人がほとんどいない、大切な真実」を持つことの重要性を説いていますが、これは大変共感する点です。彼自身は自著『ゼロ・トゥ・ワン』の冒頭でも「グローバリゼーションの進展よりも、テクノロジーの進化の方が、圧倒的にインパクトがある」と、自説を提示しているわけですが。

誰もが賛成するような平凡な内容であれば、多くの人が取り組んで競争に巻き込まれますし、大したインパクトが出ないのも無理はありません。

一見すると「えっ」と驚くような考え、周りの人は「そんなわけないじゃん」と否定するけれども、自分は「これは真実に違いない」と信じるような切り口を持つことこそが、その人ならではの価値だと思います。

否定され続けても、そうした信念を貫く肝っ玉の太さ、胆力みたいなものが重要だと捉えています。

村上:外部の意見を単に執行するだけだと、ただの手足、サラリーマン社長になってしまいます。とはいえ、経営者も全知全能ではありません。だからこそユニークネスにこだわり、「この部分だけは絶対に自分が詳しいんだ」という「芯」を持った上で、外部のフィードバックを受けて日々のアクションを微修正するマインドセットが必要でしょう。

外部の意見を真摯に受け止め、「芯」を成長させる糧に

朝倉:私たちはグロースキャピタリストという立場でスタートアップに接していますが、外部の投資家も、正しい答えを持っているわけではありません。勘所に基づいて「こうなんじゃないかな」と思う仮説を立てることはできますが、かなり確信に近い仮説もあれば、ちょっと心許ない場合もある。

外部の立場としては、いろいろな仮説を投げ掛けて、何が当人に響くかを見ている面もあります。

村上:外部の意見を自分の信じる「芯」、「自分が一番詳しいんだ」というところに柔軟に取り入れながら昇華させていくことが大切ですね。

朝倉:自分の「芯」がなく、何か言われるたびに「はい、そうですね」とコロコロ変わってしまう人は、逆に言えば外部から仮説をぶつけるのが怖い相手です。

例えば以前、個人的にエンジェル出資をしてイグジットしたある会社の創業社長は、「どうでもいい」と思ったら全然聞かない人でした。重要なところは取り入れつつも、自分なりの信念があった。それが良かったと思います。

適度に取捨選択して、重要なポイントだけ拾ってくれる人の方が、外部も安心して物を言えます。どんな意見にも盲従する状態になってしまうと、発信者も責任も負えませんし、健全な関係ではないと思います。

村上:レイトステージであれポストIPOであれ、起業家に求められるのは、誰もがまだ見ぬ新しい世界を創り出していくパワー。その意味でも、揺らがない「芯」というのを絶対に持たなければならないと思いますね。

*本記事は、signifiant style 2020/10/3に掲載した内容です。

(ライター:岩城由彦 記事協力:ふじねまゆこ)