当たる・当たらない、よりも大事なこと

――それができるのは、素材の力を信じているからでしょうか。

川村:僕の場合は逆に「信じず、疑う力」を大事にしているかもしれません。あえて、素材の力を疑ってみる。

 なぜなら、自分がおもしろいと思えるからといって、海外でもおもしろいと受け入れられるとは限りません。素材の力を信じすぎて失敗する人は多い気がするんです。

 だから、僕の場合は最初から「これはなかなか厳しいぞ」と身構えて考えます。このままではきっと受け入れられないから、現地に合わせたアレンジをするべきなのか、などと考える。でも結局「いや、余計に売れないよね」と立ち戻ったり。

 一周回って素材のままになるということもよくあるわけですが、でも、この一周があるかないかは大違いだと思います。

川原:なるほど。僕の場合は、元気さんのような経験に基づく戦略がなかったので、どちらかというと「信じて猪突猛進」派。

 ただ、バックグラウンドが異なる人たちに対して、本当に役立つ価値を提供できるかという点は、深く考え抜きました。その上で、現地の信頼できるクリエイティブチームの力を借りて、仲間になる努力をした。

 Netflixの番組制作においては、ゲイル・バーグマンという女性の重役が、僕と同じくらいの深さで麻理恵さんの価値を理解してくれました。彼女の意見を聞きながら、最適な味付けをしていったという感じですね。

川村:卓巳さんは一緒に仕事をする相手に、人間の根本的な幸福論についての話をよくしますよね。確かに、エンターテインメントもビジネスも、「どうしたら人間は幸せを感じられるのか」という問いに行き着く気がします。

川原:仕事で一番大事にしているのは、本当に伝えたい価値を伝えられているかどうかです。当たる・当たらないよりも、悔いが残らない表現ができたかどうかを判断基準にしています。

川村:あと海外進出で失敗するケースとしては、ハリウッドに行くこと自体がゴールになっていて、海を渡ってたどり着いた時点で息も絶え絶えになっているパターンです。大事なのはそこから先なのに。卓巳さんたちは「たどり着いたからには、絶対に成功する」という気概を感じます。

川原:誰と仕事をするのかには、こだわってきた気がします。海外でもロサンゼルスのようなメジャーな都市に行くと、日本人コミュニティがあって、よかれと思っていろいろなアドバイスをいただけるんです。

 ただ、そのアドバイスをすべて聞いていたら、もしかしたら大きなチャレンジはできなかったかもしれません。そこにいる誰もがたどり着いていない場所まで到達するには、ありがたいアドバイスをあえてスルーすることが必要な時もある。

 僕たちは最初から、アメリカ人のエンターテインメント産業のど真ん中で活躍する人たちと仕事をしたから、伝聞ではなくて、本当のことが自分たちで理解できた。最初は恐る恐るだけれど、勇気を持ってど真ん中で活躍する人たちに会いにいく。そこから扉が開いたように感じています。

こんまりが体現した「快・不快の感覚を磨くこと」が心を揺さぶる第一歩