「こんまり」こと近藤麻理恵は、今や「片づけ」プロフェッショナルとして、世界で最も知られる日本人の一人となりました。麻理恵さんの世界進出の戦略を手掛けてきたのがプロデューサーであり夫でもある私、川原卓巳でした。初めて書き下ろした書籍『Be Yourself』では、麻理恵さんと二人で歩いてきた「自分らしく輝く」ための道のりをご紹介しています。
今回は映画プロデューサーや作家として数々の大ヒット作を手掛けている川村元気さんとの対談。前編では、僕たち夫妻が活動の拠点をアメリカに移したことについて、無謀にも見えた挑戦を、川村さんは「リスクテイクのセンスこそプロデュース力だ」と分析してくれました(詳細は「こんまりが証明した「成功し続けるには自分が変わらないといけない」)。後編となる今回は、こんまりメソッドが世界で受け入れられた背景について、川村さんは「人間が根源的に持っている何かを片づけという方法で表現したから」と語ってくれました(構成:宮本恵理子)。

こんまりが体現した「快・不快の感覚を磨くこと」が心を揺さぶる第一歩『電車男』『告白』『悪人』『おおかみこどもの雨と雪』『バクマン。』『君の名は。』『天気の子』『怒り』などの映画を製作。著書として小説『世界から猫が消えたなら』『億男』『四月になれば彼女は』『百花』対話集『仕事。』『理系。』『ブレスト』などを手掛ける川村元気さん(写真右)

海外に出ても無理に“着替え”をさせない

――日本でヒットしたコンテンツが海外進出した途端、本来の魅力が失われてしまう失敗例は少なくありません。川原卓巳さんのプロデュース力は何が違ったのでしょうか。

川村元気さん(以下、川村):無理に“着替え”をさせなかったことだと思います。よくあるのは、普段ジャージを着ている人を、いきなり海外進出だからといって正装に着替えさせてしまうパターンです。あるいは今まで着たこともなかったアロハシャツを着て、サンダルを履くように変化をさせる。でも、やっぱり着替えちゃダメなんです。

 だから、いま読売新聞で連載中の麻理恵さんとの共同小説『おしゃべりな部屋』も、おそらく全世界で出版されるものになるだろうけど、「日本でやってきたことをそのままやりましょう」と話しています。

 卓巳さんも同じ感覚を持っているから、近藤麻理恵という人の魅力を極力変えようとはしません。“変えないプロデュース”をしていて、よそ行きにはしない。素材は同じまま、味付けだけをアメリカ人にも食べやすいように整えたという感じだったのでしょうね。

川原卓巳(以下、川原):おっしゃる通りです。例えるなら「カリフォルニアロール」みたいなものなんです。

 アメリカ人にいきなり「この生魚、おいしいよ」と薦めても受け入れられない。けれど、寿司というパッケージにして出したら「おいしいね」と食べてくれる人が増えて、さらに興味を持ってくれた人が生魚までたどり着く。この順序を繊細にやっていく必要があると、常々思っています。