人間の本気はすごいパワーを放つ

川村:ときめきで仕事を選ぶのがすごいよね。でも、確かに頭で損得を考えて選んだ仕事って、結果的にうまくいかないことが多い。

 「たとえ失敗してもこの人と一緒ならいいや」と思える仕事じゃないと。逆に「この人とやれば絶対に成功する」という下心で起動する仕事はほとんどうまくいかない気がします。

 それに、最初から狙いすまして成功できる人なんて、ほとんどいません。二人だって、最初はシリコンバレーで頑張ってみたけれど、より本質的な表現を求めてシリコンバレーから横にコロッと転がってロサンゼルスに行ってみたら、そこが正解だった。この話にはすごく勇気づけられます。

――川村さんも「最初からは成功しなかった」という経験がありますか。

川村:絶えずその繰り返しです。いつも、割と手前で失敗して、その横に虎の子がいたようなパターンばかりでした。卓巳さんに改めて聞いてみたいのは、そもそもアメリカに移住しようと思ったきっかけは何だったの?

川原:本が売れて、アメリカからも問い合わせが来るようになって、1年の半分は海外で仕事をするようになっていたんです。ただ二人とも英語が話せなくて、なかなか踏み出せなかった。

 でも、だんだんとアメリカでチャレンジしない自分たちが気持ち悪くなったんです。「一度きりの人生だし、行くなら今しかない。ダメなら戻ってこよう」と踏ん切りをつけて決めました。

川村:その気持ち悪さに忠実になるって、大事ですよね。快・不快のセンサーを信じること。静かに一人で自分に向き合って、どちらに気持ちが向くのかを丁寧に見つめること。頭でもなく、感情でもなく、ハートにまで降りていく感覚で。

 頭だけで考えると「やっぱりやめた」と及び腰になりがちだと思うんです。リスクを取りたくないから、「正式に仕事が決まってから渡米すればいいんじゃない」と思ったり。でも、それでは多分、変わらない。

川原:片足を突っ込むくらいだと、多分、何も成せなかったと思います。

川村:やっぱり、人間の本気ってすごいパワーを放つから。退路を断って挑戦する人の迫力は、全然違いますよね。だから、一流の人たちを動かすことができたんでしょうね。

こんまりが体現した「快・不快の感覚を磨くこと」が心を揺さぶる第一歩Photo by 千倉志野