説明不能の快を揺さぶること

――川村さんは快・不快のセンサーを磨くためにどんな心掛けをしていますか。

川村:「これを気持ちがいいと思うかどうか?」という視点は、僕の作品を通じて、一番気にしている点です。快・不快の感覚を磨くには、それを体験して感じるしかありません。

 ですから、新型コロナウイルスが拡大するまではとにかくよく旅をしていました。1年の半分くらいは海外をウロウロしていたんじゃないかな。

 特に好きなのはアイスランドのブラックサンドビーチという場所。真っ黒な砂浜に、白い波があって、海の向こうで天気雨が降っている……。

 そんな光景を見ただけで、なぜか涙が出る。なぜ涙が出たのかは分からない。でも、きっとここに自分が気持ちいいと感じる何かがある。それを文章なり映像なり音楽なりでどう表現したらいいのか。

 表現する時の頼りになるのが、自分自身が感じた気持ちよさの記憶。「インプット」という言葉はあまり好きじゃなくて、ただ感じる、という感覚を大事にしています。

川原:ロサンゼルスのプレミアで初めて「天気の子」を観た時に、たしか音についての感想を最初に元気さんに伝えたと思います。雨が傘に当たる音が途切れる瞬間の世界と、感情がブワッとシンクロする。何度観ても鳥肌が立ちます。

 そして、これを表現するために、どれだけ細かく修正を繰り返したんだろうと思うと、また鳥肌が立つんですよ。

川村:ありがとうございます。音は感情に働きかける上で、重要な要素ですね。僕も、説明不能の快を揺さぶられる作品が好きです。例えば、『千と千尋の神隠し』を観ても、何がおもしろいのかは説明できないけれど、ワクワクしますよね。

 あれはきっと、宮崎駿監督の快・不快のストックが尋常じゃないからだと思うんです。誰もが共有して感じられる気持ちよい感覚が、幾重にも映像と音で表現されている。

 「集合的無意識」という言葉を、『仕事。』という対談集を作っているときに谷川俊太郎さんに教えていただきました。誰もが感じているけれども、まだ言葉になっていないものを、谷川さんは最小限の言葉で表現している。宮崎さんはアニメーションでやっていて、坂本龍一さんは音楽でやる。麻理恵さんもまた、人間が根源的に持っている何かを片づけという方法で表現しているから、世界的に受け入れられたのだと思います。

 卓巳さんも、初めての書籍『Be Yourself』を出すことで、ついに表現者として表舞台に立つわけです。新たなリスクテイクであり、本気のチャレンジですよね。きっと卓巳さんのことだから、本をつくる過程そのものを妥協せず楽しんだはずです。結果はおのずとついてくるでしょう! これからも応援しています。

こんまりが体現した「快・不快の感覚を磨くこと」が心を揺さぶる第一歩