COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のいやらしい点は、医療現場のリソースを容赦なく占有すること。平時なら助かる命もリスクに曝される。
このシーズンは冬場に急増する脳卒中に注意をしてほしい。
英国の研究グループは、2020年3~7月に英国の脳卒中センターに入院した患者について、脳卒中の発症時にSARS-CoV-2(新型コロナウイルス)陽性と判定された患者86人(血管が詰まるタイプの虚血性脳卒中81人、脳内出血5人)の臨床データと、同じ期間に入院した陰性の患者1384人(同1193人、同191人)を比較。入院した後でCOVID-19を発症したとみられる36人も追加し、COVID-19と入院後の経過を調べた。
脳卒中併発の陽性患者において、咳や発熱など感染症状が現れた時期は、虚血性脳卒中例で「発症6日前」、脳内出血例では「発症4日後」という違いが認められた。
また虚血性脳卒中併発の陽性例は、重症度が陰性例よりも有意に高く、血栓が生じやすく、入院中の死亡率が高いことが判明した。運よく生還したとしても半身不随や寝たきりになる可能性が高い。
問題は、COVID-19陰性例でも平時より重症患者が多かった点だ。研究者は「陽性例はCOVID-19の炎症・血栓形成メカニズムが重症化に拍車をかけた一方、陰性例では、受診控えのほか、医療現場のひっ迫で救急搬送の受け入れ先が見つからないなどが影響した」と分析している。
脳の太い血管が血栓で詰まる虚血性脳卒中の兆候は(1)顔(Face:F)の片側に力が入らず、笑顔がつくれない、(2)腕(Arm:A)の片方が上がらない、すぐに下がってくる、物がつかめない、(3)言葉(Speech:S)ろれつが回らない、言葉が出ない、理解できないの三大症状だ。脳卒中のサインに気がついたら発症時刻(Time:T)を確認し、間髪をいれずに119番に緊急搬送を要請すること。
COVID-19併発の重症化リスクは、中高年でも油断できない。家族間で頭文字の「FAST」を周知しておこう。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)