(1)「自分を成長させられる環境がない」への対処法

 大企業を辞めたエンジニアやデザイナーに理由を聞くと、「大企業にいても成長できない」「尊敬できる先輩や同僚がいない」といった声が挙がる。優秀なエンジニアやエクスペリエンスデザイナー(XD)、プロジェクトマネージャー(PM)は、おしなべて成長意欲が高いものだ。向上心を十分に満たす仕事や環境を提供し続けられなければ、すぐに辞めてしまう。

 成長を実感できる環境づくりの方法の1つとして、最初にリーダー格を採用し、その人材にチーム組成を任せるという方法が挙げられる。BCG Digital Ventures(BCGDV)は、この方法で優秀な人材を多く獲得してきた。たとえばエンジニアは、現在はKyashのCTOとして活躍中の椎野孝弘氏を迎え入れ、彼にチーム組成を一任した。ストラテジックデザイナーに関しては、デザイン思考の第一人者的な存在である石川俊祐氏にチームの組成を任せた。また、プロダクトマネージャーは、BCGDV東京拠点の設立当初から参画していた山敷守氏に一任。彼は現在ファッションテックベンチャーDROBEのCEOとして活躍中だ。最初の1人が実力と人望を兼ね揃えた人物であることは、向上心のある仲間を引きつけるために不可欠だ。

 このように、まずトップになりうる人を先に採用し、「あなたのチームを作ってください」というミッションを与えるとよいだろう。前回の記事でも述べた通り、エンジニアやデザイナーと一口に言っても、求められる資質は多岐にわたり、一人が全ての機能を兼ね揃えていることは滅多にない。さまざまな強みを持つ人材でチームを組成するイメージで採用することが重要だ。

(2)「仕事が面白くない、やりがいのある仕事がない」への対処法

「大企業の仕事は面白くない」という声もよく聞く。それは本人の受け止め方の問題だろうと考える方も多いかもしれない。しかし、仕事が面白くないのは本人だけの問題ではない。彼らの上に立つ側にも改善すべき点がたくさんある。たとえば、以下のような例が散見される。

・エンジニアやデザイナーを、あたかも社内ベンダーか便利屋のように扱う。要件定義書の通りにモノを作らせようとして、彼らが企画そのものに意見しようとすると「いまさら見直す時間はない」と拒絶する。企画段階から巻き込まない限り、オーナーシップを持って動いてもらうことは難しいだろう。

・上司がビジョンや目的を伝えない、あるいはビジョンそのものが曖昧。何のためにこの仕事をするのか、どんな姿になりたいのか、といった手触り感のあるメッセージがないまま指示だけ出されたのでは、社内ベンダーのように受け取られても無理はない。特に、デジタルトランスフォーメーション(DX)のような全社課題においては、会社のビジョンや目的をきっちり共有しながら進めることが重要だ。「上層部がDXをやると決めたから、やるのだ」では人は動かない。