(4)「カルチャーが合わない」への対処法

 BCGDV東京拠点でエクスペリエンス・デザイン(XD)チームを率いる花城泰夢によると、デザイナーは、大企業の中で自身を「外様」だと感じる機会が多いという。大企業にはUI/UXの重要性を理解する土壌がまだまだ整っておらず、UIとは何か、UXとの違いは、といった基本的な言葉のすり合わせから時間がかかるのだ。

 たしかに彼らは専門的なスキルを持ち採用も中途が中心であることから、外様的な側面もあるが、あくまで過渡期的な現象であり、ゆくゆくは本流の一端を担う貴重な人材だ。とはいえ、トップが「これからの主役は君たちだ」というメッセージをあまりに強く発しすぎると、既存勢力とのハレーションもあるだろう。既存の人材の良さも強調しながら、融合するような空間づくりを目指すにはどうしたらよいか。

 私は、新しいケイパビリティの定着にはいくつかの段階があり、それによって彼らがのびのびと活躍できる環境も変わってくると考えている。まず、人数が少ない初期段階には、前述した「出島」を設け、ある程度治外法権的にやらせることが有効だろう。社内に別部署を立ち上げる、BCGDVのように別ガバナンス・別ロケーションの新組織を設立するなど、出島と言ってもさまざまな方法が考えられる。ある程度人数が増えてきたら、現場の相互交流を促すような仕掛けが必要になってくるだろう。プロジェクトの組み方やオフィスの立地も近づけ、既存メンバーとの融合をはかる。BCGDVも設立当初はBCGDVのみで実施する案件が多かったが、最近はBCG本体との協働も増えている。自社がどの段階にあるかを見極め、新しい人材が快適に働ける環境づくりが重要だ。

 加えて、ガバナンスとして方向性を示すために、エンジニアやデザイナーの役割を十分に理解したデジタル系企業の経営者を社外役員に迎え入れたり、エンジニア・XD・PMそれぞれのキャリアパスを明示したりすることも、彼らの安心感につながるだろう。

 さて、ここまでは新しいケイパビリティが定着しない要因を挙げ、それらの対処法を説明してきた。いろいろな方策を述べたが、彼らにとって何よりも安心感につながるのは、これらの取り組みが一過性で終わらず、長く続くという会社の意思を感じられることだ。この姿勢こそが、次に述べる「やり切る」「ぶれない」につながっていく。