日本で「最高の天才」は道元
加藤 私はもっと、昔の教育に学ぶところがあるかと思っていました。論語を丸暗記してテストするというようなことではなく、対話的なものが学びのベースにあるのかと思っていて。
本郷 残念ながら日本人は、世界から見ると「哲学がない」のですよ。日本史の中に哲学者っていないでしょう? アウグスティヌスとかソクラテスみたいな、「知の生きた姿だ」と言いたくなるような人。『やばい日本史』を読んでも、そういう人は出てきません(笑)。
ああ、でも道元は天才ですね。僕は日本で最高の天才だと思っています。
加藤 道元は、『やばい日本史』には登場していないですね。どんなところがすごいとお考えですか。
本郷 学者としてのすごさです。『正法眼蔵』を読むと、いかに緻密な論理を展開しているかわかります。
「武士道」は哲学ではない
加藤 「武士道」は世界で人気があって、アメリカの起業家や投資家にもファンが多いようです。スティーブ・ジョブズも影響を受けていたと言われています。「武士道」は哲学とは言えませんか?
本郷 「武士道」は実践道徳であって、哲学とは違います。ギリギリの戦いを生き抜いてきた人たちの、「美しく生きるにはどうしたらいいか」という道徳が書いてあります。そういう意味では嘘がありません。
でも、武士は戦いが前提にあって存在するものですから、「武士らしく生きる」ことと「人間らしく生きる」ことは矛盾してしまう。そこに武士の悲しさがありますね。
江戸時代は平和な時代で戦がなく、家族を大事にしたいとか子どもを慈しみたいという豊かな感情も湧いてくるわけですが、それは武士道と相反するのです。シリコンバレーの投資家が「武士道は良い」と言ってくれているのは、日本人としては嬉しいですけどね。
(次回「東大教授が語る『愚者』と『賢者』の歴史の見方」に続く)
1973年京都市出まれ。1996年東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、国際バカロレア、教育分野を中心に「NewsPicks」「プレジデントFamily」「ReseMom(リセマム)」「ダイヤモンド・オンライン」などさまざまなメディアで旺盛な取材、執筆を続けている。一男一女の母。膨大な資料と取材から「いま一番子どものためになること」をまとめた『子育てベスト100──「最先端の新常識×子どもに一番大事なこと」が1冊で全部丸わかり』が15万部を超える大きな話題となっている。