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米国、中国、インド、欧州、東南アジア、そして日本――世界を代表する50社超の新興企業と、その革新を支える「技術」「ビジネスモデル」を網羅した決定版、『スタートアップとテクノロジーの世界地図』。今回は同書より、日本ではほとんど知られていない、いま中国を席巻している2社の小売スタートアップを紹介する。

出店すると周囲の地価が上がるスーパーマーケット

「ニューリテール」は、Alibabaグループが提唱している中核戦略の1つだ。

 同社のホームページによれば、これは「モバイルインターネットとデータテクノロジーを用いることで、小売業のデジタルトランスフォーメーションを実現し、オンラインとオフラインを融合させた新しい消費体験を提供」することであるという。このニューリテールというコンセプトを軸に、中国ではさまざまな「toC」ビジネスのスタートアップが花開いている。

 Alibabaグループが提供している小売業の中でも注目したいのが盒馬鮮生(フーマー)だ。フーマーは「食」という多様なニーズに対し、Alibabaの技術とプラットフォームを活用して、小売、飲食、物流およびサプライチェーンを複合させた、新たなビジネスモデルの生鮮スーパーである。中国都市部で生活する客に、オフラインとオンラインの垣根を越えたシームレスな買物体験を提供する。

 フーマーの店内では普通のスーパーマーケットでは販売されていないような、少し高価格帯の商品や、珍しい食品が取り扱われている。大きないけすも複数配置されており、鮮度抜群の魚を購入することもできるし、その場で調理してもらって食べることもできる。会計はスマホアプリによる無人決済が大半だ。

 商品はオンラインからも注文可能で、店舗から3km圏内であれば無料で30分で届けるというサービスがウリだ。客がスマートフォンから注文した商品を店舗で働く従業員がピックアップ。商品を詰めたピッキングバッグは店舗の上部に張り巡らされたベルトコンベアにつるされて店内を移動。最後はバイク等でお客様の自宅へ届けられる。

 食品を販売しつつ、飲食店としての機能も持ち、オンライン注文の倉庫やデリバリーという、複数の役割を担う店舗なのである。

 フーマーの出店メリットを最も享受するのは、実は不動産販売業だ。フーマーから30分配達圏内は高級エリアという扱いになり、その圏外の地価と大きな差がつく。フーマーの配達圏内だと地価が上がる「フーマー区」という言葉も登場するほどである。

 ちなみに、不動産販売業者は、中国で一時期非常に流行した(そして今はすっかりすたれてしまった)シェアサイクルによっても得をした。土地の値段は駅にどれだけ近いかによって決まるが、それまで安価に売買されていた駅徒歩7分以上の土地が、シェアサイクルの登場によって、倍にも跳ね上がったからだ。

 フーマーのもう1つの特徴はトレーサビリティーを重視している点だ。食品偽装問題が多発する中国では、多くの消費者が食の安心・安全に不安を持っていて、このようなアピールはよいブランディングになる。

農村部をターゲットにした共同購入アプリ

 もう1つ今の中国で興味深い「toC」の業態がピンドゥオドゥオである。2015年に創業された「共同購入」のプラットフォームで、流通取引総額は約10兆6000億円。京東(ジンドン)を抜き、Alibabaに次ぐ中国第2位のECプラットフォームに短期間で成長した。Tシャツ、トイレットペーパー、家電……さまざまなものが非常に安価に販売されている。

 それまでAlibabaやジンドンを利用し、これらECプラットフォームの成長の原動力となったのが沿岸の都市部の購買力だ。一方後発であるピンドゥオドゥオは「内陸部の農村の人々」にターゲットを絞った。ブランドを気にせず、低価格の商品を歓迎する彼らに、中毒になるようなゲーム性を感じさせる共同購入の仕組みを提供。沿岸に比べると貧弱な物流網も整えながら内陸部でビジネスを展開している。

 中国は巨大経済圏構想「一帯一路」を進めている。これはアジアとヨーロッパを結ぶ物流ルートを作り貿易を活発化させることによって経済成長を進めようというものだ。都市と都市を結べば、その間の物流量が増え、購買力も高まる。中国はそれを中国国内の沿岸部と内陸部でおこなっているが、交易の範囲をヨーロッパまで広げれば、さらなる発展が見込めるという考えだ。

 ピンドゥオドゥオは、この西へ向かう流れに乗って成長を遂げた。西へ向かう物流網がさらに整備された後には、Alibabaやジンドンもその流れを後追いし、さらに西へ、つまり、より農村部へと向かっていくだろう。