絶対儲かる新業態を計画しても
社員が疲弊するからやらない

土屋:ただ、たくさんの目標をつくると拡散してしまいます。やれば儲かるだろうという新業態を思いついてもやりません。

御立:これまで考えたコンセプトのなかでやらなかったものは何ですか。

土屋:たとえば、既存の製品から高機能シューズだけを集め、980円と1900円の2プライスで売る店です。実施すれば2000~3000億円の売上になりますが、今はWORKMAN Plus、#ワークマン女子で社員は手一杯。2021年3月にオープン予定で出店場所まで決めていましたが取り消しました。

御立:WORKMAN Plus、#ワークマン女子で勝ちきるところまでやったらですね。

土屋:社員が楽しく働けなくなったら元も子もありません。しばらく「待ち」です。実は雨の専門ショップ(ワークマンレイン)も考えています。

御立:日本でも自然災害につながる1日当たりの降水量が100ミリ以上の大雨の降る日が増えています。

土屋:日本は年間120日程度雨が降りますが、これからはその日数が増えたり、雨の降り方が激しくなると予測されています。
そうなると、レインウェア、傘、靴などのニーズが多様化してきます。働き方や遊び方に応じた機能、雨の程度、小雨、中程度の雨、豪雨に応じた機能も必要になるでしょう。店内に雨を降らせ、雨の程度の違いお客様にわかってもらおうと思います。

御立:災害寸前レベルのゲリラ豪雨も増えています。その用途に耐える製品もすでにありますよね。

土屋:準備はできています。意外なところでは防水バッグは浮き輪として使えてしまいました。浮き輪としての安全保証は絶対にできないのですが。

御立:そうなんですか。

土屋:これに気づいたのは、2018年7月7日、愛媛県にある肱川(ひじがわ)大水害のときです。ある店長が現金を防水バッグに入れました。防水バッグに入れれば現金が濡れないと思ったからです。カバンをもって外に出たら洪水に遭いました。ところがカバンが水に浮き、店長はお金を大事に抱えたがゆえに浮いて助かったのです。

御立:そういう話がYouTubeで出ていたりすると防災関係者も注目するでしょう。

土屋:でも、ゆっくりやっていきます。アウトドアで4000億円の市場がありますから、それをあまり早く取りたくない。増収増益で少しずつ着実に取っていきます。

御立:先の読み方、時間の考え方が実に奥深いです。次回、もっと掘り下げて聞いていきたいと思います。

御立尚資(みたち・たかし)
ボストン コンサルティング グループ シニア・アドバイザー
京都大学文学部米文学科卒。ハーバード大学より経営学修士(MBA with High Distinction, Baker Scholar)を取得。日本航空株式会社を経て、1993年BCG入社。2005年から2015年まで日本代表、2006年から2013年までBCGグローバル経営会議メンバーを務める。BCGでの現職の他、楽天株式会社、DMG森精機株式会社、東京海上ホールディングス株式会社、ユニ・チャーム株式会社などでの社外取締役、ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン専務理事、大原美術館理事、京都大学経営管理大学院にて特別教授なども務めている。経済同友会副代表幹事(2013-2016)。著書に、『戦略「脳」を鍛える~BCG流戦略発想の技術』(東洋経済新報社)、『経営思考の「補助線」』『変化の時代、変わる力』(以上、日本経済新聞出版社)、『ビジネスゲームセオリー:経営戦略をゲーム理論で考える』(共著、日本評論社)、『ジオエコノミクスの世紀 Gゼロ後の日本が生き残る道』(共著、日本経済新聞出版社)、『「ミライの兆し」の見つけ方』(日経BP)などがある。

土屋哲雄(つちや・てつお)
株式会社ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。2012年、ワークマン常務取締役。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。「ダイヤモンド経営塾」第八期講師。これまで明かされてこなかった「しない経営」と「エクセル経営」の両輪によりブルーオーシャン市場を頑張らずに切り拓く秘密を本書で初めて公開。本書が初の著書。