「月収100万円以上も」の誘い文句でマッサージ嬢に
彼女が居酒屋で働き始めて2ヵ月ほど経った頃のこと。近くのビルの7階に「中国エステ」の店が入居していることに気がついた。そして、ビルの前では中国人女性が客引きをしている姿がある。
「アルバイトが終わった後、思い切ってキャッチの女の子に声をかけてみました。そして、仕事の内容や、お金のことを聞いて。たまたまその女の子が私と同じ省の出身で。あ、漢民族だったけど、故郷が近いから話があって、すぐにお店のママに紹介してくれたんです。ママは40歳くらい、大連の人でした」
なお、「中国エステ」といっても、肌のケアや痩身などを掲げる「エステティックサロン」等とは何の関係もない。詳細は後述するが、「主に男性を対象に中国人(韓国人や日本人が働いていることもある)女性がマッサージを施す業態」を指し「中国式リラクゼーション」「メンズエステ」「アジアンエステ」などという看板を掲げることもある。
チェ・ホアは、先に日本にやって来ていた友人から、「中国エステ」で働く者が周りにいるということをなんとなくは耳にしていた。
「学生の時にマッサージのアルバイトをやったことはあったんです。私の地元のほうは、日本に比べてマッサージのお店、多いですね。マッサージは元手がかからないから、とくに女性の仕事として人気があります。私が働いていたのは普通のマッサージ店でした。そこでマッサージの技術を学びました。でも、一日働いて、当時で200円位かな。それが日本では1万円とか2万円にもなるって聞いて、最初はびっくりしました」
「中国エステ」を経営する「ママ」は彼女を一目見ると、こう言ったという。
「あなた、すぐに人気嬢になれるわよ。日本語が上手だし、あなたみたいな小柄で可愛い感じのコが好きな日本人は多いの。慣れれば、月に100万円以上稼ぐこともできる。今日からでもうちで働いてみる?」
彼女は「これだ」と思った。しかし、店の控室でママと話していると、個室から客とマッサージ嬢の「なんか恋人同士がいちゃいちゃしてるような声」が漏れ聞こえてきて不安を覚えた。チェ・ホアはママに質問を続ける。
――ただのマッサージですよね?
「うちの店は基本的に性的サービスはない。1時間6000円の基本コースが普通のマッサージ。ただ、基本コースのお客さんはあまりいない。店の“売り”はオイルマッサージとパウダーマッサージ。それで、股間に触ったりはしないけど、ぎりぎりの部分をソフトに触ったり、揉んだりはする。でも、そのぐらいまで」
――お客さんから触ってきたりとかないんですか?
「うん、それはもちろんあるわよ。酔って来店するお客さんも多いし、風俗マッサージ店だと思って来るお客さんもいるから。でも、そのへんは女の子次第ね。どこまで許すか。もちろん無理やり、強引なお客さんがいたら、私に連絡してもらえば、すぐに受付にいる男性スタッフに対応させるから安心して」
それ以外にどんなやり取りをしたのか、細かいことまでは覚えていない。ただ、その夜からエステ嬢として働き始める、とその場で決断したことだけは確かだった。