ロイヤル・ダッチ・シェルといえば、1997年、彼らが世界中の長寿企業を調査した結果をまとめた『リビングカンパニー』(日経BP社)という書籍があり、「変化への適応力」が何より重要であると指摘しています。

斎藤そうした組織能力を強化するには、自社のビジネスコンテキストに沿ってサステナビリティへの対応を考えなければなりません。その際、わかりやすいのは、一例として気候変動と脱炭素(SDGsの13番目)について考えてみることでしょう。

 菅義偉首相は就任演説で「2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロ」の方針を公にしましたが、脱炭素に対する動きは2020年初めにすでに始まっていました。コロナが蔓延する直前にメガバンクは、以前より進めていた石炭火力プロジェクトには新規の融資を行わないと発表したのです。この背景には、グローバル金融セクターにおける脱炭素の動きが大きく関係しており、炭素関連アセットの多いポートフォリオを持った金融機関の調達金利に影響が及ぶ可能性があります。

 また、日本を代表する大企業では、再生可能エネルギー由来の電力に変更する、グリーン電力証書などを購入して再生可能エネルギーの普及・拡大を支援するといった取り組みが始まっており、今後はより活発化していくことが予想されます。

サステナビリティ経営から
次なる成長戦略が見えてくる

斎藤サステナビリティの観点から自社の価値創造プロセスを見直す必要があり、今後、あらゆる企業にとってサステナビリティが大前提になります。

 一例として、自社の価値創造プロセスは長期的に持続しうるのかについて考えてみますと──これはSDGsの12番目の目標「持続可能な消費と生産のパターンを確保する」に関係しますが──新たな環境規制や規制強化、サステナブルな新技術との代替可能性はあるのか、その結果、自社のサプライチェーンにどのような影響が生じるのか、調達先あるいは供給先を見直すべきなのか、生産工程にも見直しが必要なのか、コストは上昇するのか、また付加価値は高まるのか、顧客の反応はどうかなどについてホリスティックにとらえて、個々の変数の変化を踏まえた複数のシナリオを用意すべきです。

関口KPMGにおけるサステナビリティの取り組みはけっこう長く、かれこれ四半世紀にわたって情報を発信したり、コンサルティングや調査などのサービスを提供したりしてきました。2020年9月に、KPMG全体としてサステナビリティに関するサービスを包括的に体系化し、世界中に在籍する経験豊富なプロフェッショナルで構成された「KPMG IMPACT」というプロジェクトを正式に立ち上げました。

 これは、KPMGがグローバル組織として、企業の社会課題解決を支援するマニフェストで、主に「ESGアドバイザリー」「経済と社会の発展」「サステナブルファイナンス」「気候変動と脱炭素」「サステナビリティに関する報告・開示・保証」の5分野から構成されています。

 さて、SDGsやパリ協定が採択された2015年以降、まだ温度差はあるとはいえ、ビジネスリーダーの意識や考え方は明らかに変わりつつある、という実感を持っています。先覚的な企業は、サステナビリティは制約を課すものではなく、むしろ変革と成長を促すドライバーであると認識しています。

 地球環境問題というと、かつては他人事でしたが、いまや自分事であり、積極的に取り組めば利益や成長の源泉になりうるという考え方に変わってきました。

関口私は、エネルギー業界を担当していますが、斎藤が述べたように、石油メジャー各社はずいぶん前から石油需要が先細っていくことを予想し、モビリティや電力への再生可能エネルギーの供給など、既存事業とは真逆の事業をスタートさせています。いわゆる「両利きの経営」ですね。また、デンマークの電力会社、DONG(Danish Oil and Natural Gas)エナジーなどは、オーステッドとして生まれ変わり、いまや完全なる再生可能エネルギーの会社になりました。

 事実、2019年末にパリで開かれたエネルギー業界関係者による国際会議に参加した時、そこでの話題は脱炭素一色でした。ディナーで隣に座っていたのはBPのチーフ・カーボンマネジメント・オフィサーで、グローバルオペレーションにおける炭素のポジション管理を担当していると聞いて、大きな衝撃を受けました。

 日本の場合、その重要性を頭ではわかっていても、実際の行動はかなり遅れています。だからこそ、日本企業のリーダーの皆さんに、サステナビリティの流れはもはや不可逆であり、経営の中核に据え、いち早く行動する必要性をお話ししています。