企業にとっての最重要課題は、永続性のある成長

 あるアパレルのチェーンでは、多大なる持ち越し在庫を抱えているにもかかわらず、年度のPLを改善するためにと、年始に売り出す福袋に、わざわざ粗利益の取れる商品を新規に発注して用意しました。

 結局、商品の品質は顧客の期待レベルに至っていませんでしたので、計画していた数量を販売することができず、せっかくの持ち越し在庫を換金する機会を逸してしまい、ただ現金を減らし、PLも改善しないという結果に終わりました。

 そもそもビジネス、あるいは商売の本質は、財布の中にあるたとえば100万円を、1年なら1年という期間単位でどのくらい増やしたのかというシンプルなものです。

 ビジネスを続けるためには、それを支える社員が必要です。また、その事業の価値を信頼して「また、買いたい」と思ってくださる顧客に支えられているのです。それゆえ、事業には永続性が必須になります。

 仕事をしてくれた社員への分配金、事業に要した経費、企業に投資してくれた方々への配当を差し引いて、残った利益分を積み重ね、それを使って事業を拡大、発展させていくべきものです。

 その一方で、経費の節約だけで利益を捻出し、前年対比+数%の成長の達成に一喜一憂しながら、何年間もとりあえずの利益確保で及第点を得た気になっている企業は、世に数多くあります。そういう会社は、新卒者の採用を続けながら、今のピラミッド型の組織の形を維持するには、その程度の成長率ではまったく足りないことに気が付いていないのか、あるいはその事実には目をつぶっているのかもしれません。

 さらに考えてみれば、本当に企業の発展の原動力となりうる様々な知恵や知見は、経営上は単なる人件費とみなされ、役職定年や定年後の再雇用時に給与が大幅に下がる、実務の経験を積んだエキスパート、特に高度成長期が終わり、現場でアガキ続けた経験のある今、引退しつつあるシニア組が有しているのです。大企業であればあるほど、このことに気が付いていないのか、あるいは目の前のPLの帳尻合わせのためにあえて目をつぶって、人事部が上げてくる人件費抑制プランを承認しているのかもしれません。

 たとえば、今の管理体系の中で保身型の技術者も増える一方で、様々な知見を蓄積してきた日本の優秀なエンジニアたちは、定年を迎えると頭の中の知恵の集積を会社の財産として十分に残すことなく、企業を去っていきます。経営側に、その方々にうまく活躍していただくマネジメントのあり方が、いまだにイメージできないのでしょう。

 判断を誤るとキャッシュがなくなり、一瞬にして息の根が止まるという切羽詰まった状態ではない限り、事業価値を向上させる経営者の評価は、次の3つでできます。

(1)事業に要した金額に対して、どのくらいのリターンがあったのか、つまりお客様がどれだけの付加価値を認めたのか(効率)
(2)事業が成長していて、その成長に継続性をもたらす挑戦がなされ、学びがなされ続けているのか(攻めによる学習と、それによる成長性)
(3)その事業が信頼のブランドとして、世にどれだけ浸透して、顧客のリピートにつながっているのか(信頼の蓄積)

 この3点から評価されるべきものであることを、今一度、経営層、そして株主は、改めて確認すべきではないでしょうか。

《Point》
 ビジネスは、(1)財布の中のお金を1年後にどのくらい増やしたか、つまり資産効率と、(2)永続的な事業の発展と成長のための、永続的な「学び」と「信頼の獲得」。
 PL、BSは結果にすぎない。特にPLばかりへの意識の偏重は、経営の本質を見る眼を眩(くら)ませる。