コロナ禍では、お金を増やすより、守る意識のほうが大切です。
相続税は、1人につき1回しか発生しない税金ですが、その額は極めて大きく、無視できません。家族間のトラブルも年々増えており、相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」で起きています。
本連載は、相続にまつわる法律や税金の基礎知識から、相続争いの裁判例や税務調査の勘所を学ぶものです。著者は、日本一の相続専門YouTuBer税理士の橘慶太氏。チャンネル登録者数は4.8万人を超え、「相続」カテゴリーでは、日本一を誇ります。また、税理士法人の代表でもあり、相続の相談実績は5000人を超えます。初の単著『ぶっちゃけ相続 日本一の相続専門YouTuBer税理士がお金のソン・トクをとことん教えます!』も出版し(12月2日刊行)、遺言書、相続税、不動産、税務調査、各種手続きという観点から、相続のリアルをあますところなく伝えています。

税務署が許さない「露骨な相続税対策」とは?Photo: Adobe Stock

ルール通りにやったのに、追徴課税!?

 国税庁が公表するルールブック(財産評価基本通達)に従って申告をしても、「あまりにも露骨な相続税対策」と認定されると、追徴課税される可能性があります。

 2019年8月27日、東京地裁より「相続開始の直前に購入した不動産は、明らかに相続税を少なくすることを目的としたものであり、このような不動産を路線価方式や、固定資産税評価により評価することは、他の納税者との間に非常に大きな不公平が生ずるため、不動産鑑定士が評価した金額で相続税を再計算し、相続税を追加で3億円納税しなさい」という衝撃的な判決がでました。

「納税者は、国が公表しているルールブック通りに相続税を計算していたのに、そのルールを国が自ら否定するとは何事か!」と、実務家の中でも物議を醸しました。

 しかし私は、このケースでは、あまりにも露骨な相続税対策と言われても仕方ない部分があると思っています。

 国が定めているルールブックには、「【財産評価基本通達第6項】この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」という規定があります。

 今回のケースでも第6項が適用されたので、広い意味ではルールの範囲内であるとも言えます。東京地裁判決で、なぜルールブックの評価が否定されたのかについて解説します。時系列は次の通りです。

(1) 銀行へ相続税対策の相談(2008年5月)
(2) 孫を養子縁組(2008年8月)
(3) 不動産Aを8.3億円で購入(2009年1月)※借入6.3億円
(4) 不動産Bを5.5億円で購入(2009年12月)※借入4.3億円
(5) 相続発生(2012年6月)※不動産A評価額2億円、不動産B評価額1.3億円で申告(相続税0円)
(6) 遺産分割協議成立(2012年10月)
(7) 不動産Bを5.1億円で売却(2013年3月)

 論点を詳しく見ていきましょう。

 不動産Aは8.3億円で買ったものが、相続税評価額は2億円。不動産Bは5.5億円で買ったものが、相続税評価額は1.3億円。購入した金額と比べると、評価額は約4分の1まで減少しています。

 この購入額(時価)と評価額の差により、相続税は0円。当然、国税も黙っておらず、東京地裁においては国税側が勝利しています(今後の上級審はどうなるかわかりません)。

 この判決のポイントは、大きく3つ挙げられます。