経営者はITに疎い友人・知人との
付き合いを考えるべき

 私の経験から、逆にデジタルの世界や文字だらけの本を敬遠してきた人たちに言えることは、「その世界が面白い」「新たな世界がある」と感じられるきっかけがあれば、苦手意識や食わず嫌いをいったん脇に置いて「ちょっと触ってみようかな」「読んでみようかな」と思えるようになるのではないか、ということです。

 ITが理解できないと避けている人も、周りでデジタルデバイスを触ったり、プログラミングしたりする人が楽しそうにしていれば、「そこに何か新しい世界があるのかもしれない」と感じられるかもしれません。

 私が文字だけの分厚い本に抵抗がないのは、新卒で就職した会社で先輩たちが、翻訳書がない英語の技術書を苦もなく読んでいたことがきっかけです。初めは「先輩たちはすごいな」と思っていたのですが、自分でトライしてみれば、それほど大変ではなく、むしろ情報が早く得られると気づいて世界が広がりました。

 面白いと感じられること、自分にとって新たな知識が獲得できると気づくことができれば、何でも「もっとやってみよう」と思えるようになるのではないでしょうか。

 私が技術顧問として支援する企業の経営者でITを理解しようとしない方には、そういう意味で「付き合う人を変えた方がいい」という助言をすることがあります。経営者がITを理解しないのは、その友人や先輩格の経営者などからのアドバイスが一方的過ぎて、悪い影響を及ぼしているというケースが往々にしてあるからです。

 例えば、私は常々、ITシステム開発を外部のシステムインテグレーターやベンダーに丸投げするのではなく、内製化比率を高めるべきと話しています。ところがベンダー丸投げでシステム開発を行ってきた旧来型企業の先輩経営者に相談して、「自社では内製化は失敗した。やっぱりITはITベンダーに任せるべき」などとアドバイスされると、それがたった1つの事例に過ぎないのに「内製化をやめよう」と判断してしまう経営者もいるのです。

 周りの友人・知人にITに疎い人しかいなければ、ITから遠ざかるようなアドバイスしか得られなくなります。それでは事業や組織から変革しようというデジタルトランスフォーメーション(DX)など、手がけようとも思わなくなるでしょう。

 私自身も、ゲームやエンタメの話は普段からしない人間だと周囲から認識されていますし、友人にもゲームなどを好んでやる人は少ないのではないかと思います。ただし、自分が恵まれていると感じるのは、10歳ぐらい年下の人が同僚や上司、仕事先の関係者として常に身の回りにいて、何かと教えてくれる環境にあることです。

 SNSなどで好ましい情報しか目にしなくなる「フィルターバブル」や、特定の組織やコミュニティの中だけでしか通用しない「たこつぼ化」の状態から、少しだけでもはみ出た立場にいると、「視聴した方がいいアニメ、ドラマ」や「やった方がいいゲーム」など、いろいろなことの楽しさを教えてもらえるし、その世界に引っ張り込んでもらえます。

 大企業に長い間所属して過ごしてしまうと、なかなかそういう機会に出合いにくいかもしれませんが、少しでも新しい発見があれば、世界はもっと広がるのではないかと思います。