各自治体で大きな違いがある日本語の学習指導
「日本語教育の推進に関する法律」(日本語教育推進法)が成立した2019年6月から、文部科学省が「外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議*8 」を開催するなど、国や自治体は、在留外国人やその家族である「外国にルーツを持つ子どもたち」への日本語指導の推進を強めている。そうした動きを枦木さんはどう受け止めているのか?
*8 2015年/平成27年~2016年/平成28年には、「学校における外国人児童生徒等に対する教育支援に関する有識者会議」が定期開催された。以下、「外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議(第1回)の開催について」より抜粋
我が国の公立学校に在籍する日本語指導が必要な外国人児童生徒等がこの10年間で1.7倍に増加し、4万人を超える現状等を踏まえ、外国人児童生徒の教育についても一層の充実を図ることが重要です。文部科学省においては、昨年12月の外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議において取りまとめられた「外国人材の受入・共生のための総合的対応策」に基づき、施策の充実を図っているところですが、この度、「外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議」を新たに設け、外国人児童生徒等に対する教育に係る現状と課題を分析し、その更なる充実のための方策について検討することとしました。
枦木 多くの子どもたちは、家族と共に日本で中長期に渡って生活をしていきます。地域の住民として暮らすためには、日本語の習得や就学、就職は重要な問題です。誰でも未来を描ける環境が必要であり、国籍を問わず、子どもたちにとっては、学ぶ場の保障が必要です。私たちのいちばんの課題は、子どもたちに安定した学ぶ場所を提供することです。NPOとして、綱渡り状態でこの20年間やってきています。授業料をいただいていますが、それですべての支援を行えるわけではありません。親(保護者)に負担をできるだけかけないようにしたい思いは強くあるのですが、寄付や助成金がないと運営できない現実があります。それは、私たちに限らず、在留外国人の生活や学習をサポートする多くのNPOが同じ状況でしょう。この先、日本が外国人をさらに受入れ、共に地域を創っていくのであれば、国には、教育や日本語指導のためのさらなる予算化をお願いしたいです。多文化で多言語な若者たちは、多様な価値観を持ち、社会で活躍する可能性も持っています。
「外国にルーツを持つ子どもたち」の居住は全国に及ぶが、散在地域と集住地域という言葉で表されるような人口差がある。そうした理由から、たとえば、児童生徒1人当たりの日本語の年間指導時間の上限が、25時間~294時間といった“自治体間の温度差”が見られる*9 。
*9 認定NPO法人 多文化共生センター東京「外国人児童生徒等に対する日本語指導についての調査(中間報告)」より
枦木 「外国にルーツを持つ子どもたち」が日本国内のどの地域に住むかによって、日本語学習の多寡だけでなく、学ぶ教科も異なり、そのことが、子どもたちの生きていく力や将来就くべき仕事に影響を与えます。常日頃、私たちは親(保護者)からの相談を受けていますが、その中には「東京に住みたい」という海外居住者(外国人)からの声もあり、「都内のどの区に住めば十分な日本語指導を受けられますか?」といった、率直で具体的な質問もあります。東京23区内の公立小中学校の間でさえも、学習期間が半年間あるいは数カ月間というふうに、その日本語指導には違いがあるのです。差異が生じる理由は、(公立小中学校の)教育課程が各市区町村に任されているからです。「外国にルーツを持つ子どもたち」が言語習得に必要な“系統だった支援”や“人材育成”を望むところです。