親子間のコミュニケーションに問題がある場合も
国や自治体の施策、教育機関やNPO、ボランティア団体による「外国にルーツを持つ子どもたち」へのサポートはこれから増えていくだろう。一方で、子どもたちに最も近い関係で教育を施していくべき親(保護者)はどのような状況にあるのか。子どもの教育(就学)についての理解や関心が低く、日本の学校に通わせるつもりのない親(保護者)もいることが公的な調査でも明らかになっているが…*14
*14 文部科学省「外国人の子供の就学状況等調査結果の自由記述~就学状況の把握に係る課題の例~」(2020年/令和2年3月)より
撮影:オリイジン
枦木 親(保護者)のひとつのパターンとして、自国の親戚に子どもを預け、日本での仕事が落ち着いてから子どもを日本に呼び寄せることがあります。成長した子どもとの生活を日本で再開するわけです。その場合、親子間での意思疎通がうまくいかないことがあります。友達のいる、自国の中学校を卒業し、日本に来たくて来たわけではない子どもにとって、異国の地で暮らすことには葛藤があり、それなりの決意や納得が必要です。まずは、親子間のコミュニケーションを増やすことが肝要ですが、寸暇を惜しみ、身を粉にして働いている親(保護者)も多いので、子どもと対話する機会を思うように取れなかったりします。子育てを卒業した同国の人に自国の言葉で気軽に相談できる公的な場所があるとよいのですが…。
外国人のビジネスパーソンの中には子どもをインタナショナルスクールに通わせて、最終的には子どもと一緒に自国に帰る人もいます。一方、日本での定住や永住を希望し、将来の生活基盤を日本に置く人たちは、日本の生活習慣を覚えながら日本語を学んでいきたいという思いがあります。
そして、これは、国や自治体への要望ですが…不就学の子どもを把握する取り組みは始まりましたが、学校に在籍しながら「通学していない」子どもたちもたくさんいるので、その実態を調べていただきたいです。教室の中で座ってはいるものの、ひらがなや漢字が読めず、適切な支援がないまま不登校になり、ただ形式的に学校を卒業してしまう子どももいるのです。たぶんかフリースクールでは、そうした子どもたちの在籍する学校や保護者からの相談があり、受入れもしています。
たぶんかフリースクールの目的は「外国にルーツを持つ子どもたち」の高校進学だ。そのため、日本語指導を中心にした塾や予備校的なイメージもあるが、卒業生たちが思い出として綴ること*15 は遠足や職場体験といった課外活動が多い。教室の内外で元気に会話する子どもたちを見れば、スクールの価値が“人と人のつながり”にあることにも気づく。
*15 認定NPO法人 多文化共生センター東京のホームぺ―ジ「高校につながった子どもたちの声」より
枦木 当スクールを普通の学校に近いかたちで運営していきたいという気持ちが私たちにはあります。先生との交流はもちろん、「学び」には人との出会いで生まれるもの、教室の外の体験で得られるものがあります。そうした学びが、特に思春期の子どもたちには大切だと思います。ですから、企業から支援をいただいて鎌倉まで遠足したり、スクールのある荒川の街をみんなで歩いたりします。日本に来たばかりで、まだ言葉(日本語)が十分でない子どもは、外の社会とのつながりをほとんど持てません。家族以外の人たちと交流できる機会は貴重ですし、一人で遠くまで出かけられない子どもたちにとっては忘れられない体験になっているようです。同時に自分と同じような困難を持つ多国籍な仲間との出会いは、安心して自分自身を表現し、交流できる時間となっています。「先生、多文化高校があったらいいな、創ってほしい」という声もあります。