コロナ禍の「外国人技能実習生」の実態、フィリピン人実習生の悲しみと喜び

コロナ禍は、日本で暮らし働く外国人(在留外国人)にも大きな影響を与えている。40万人以上が在留している技能実習生については、その経済的困窮や失踪者の犯罪関与といったネガティブな報道もあり、悪しきイメージが先行しているようだ。実際にいま、技能実習生たちはどういう状況に置かれ、仕事(実習)にどのように向き合っているのか? 「オリイジン2020」に寄稿され、監理団体で技能実習生と日々コンタクトを続ける玉腰辰己さんに、その“現在進行形”を聞いた。(ダイヤモンド・セレクト「オリイジン」編集部)

*本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティ マガジン 「Oriijin(オリイジン)2020」からの転載記事「外国人労働者との付き合い方が、これからの企業の生命線になる理由」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。

コロナ禍の2020年は技能実習生には「寂しい一年」

 玉腰さんの機関(技能実習制度における監理団体)は、東北6県を中心に、全国約70社に計260人ほどの技能実習生を送り出している*1 。技能実習生たちの仕事内容は、掘削・型枠工事・締固め・塗装といった作業を行う土木・建設関係が8割で、国籍は、フィリピンが86%、ベトナムが7%、インドネシア人とミャンマー人が若干名という構成だ。昨年2020年から2021年の現在に至るコロナ禍で、そうした技能実習生たちはどのような時間を日本で過ごしているのだろう。

*1 技能実習生の受入れには企業単独型と団体監理型の2つの方式がある。企業単独型は、日本の企業等(実習実施者)が海外の現地法人、合弁企業や取引先企業の職員を受け入れて技能実習を実施する方式で、団体監理型は、事業協同組合や商工会等の営利を目的としない団体(監理団体)が技能実習生を受け入れて、傘下の企業等(実習実施者)で技能実習を実施する方式。 (公益財団法人 国際人材協力機構 [外国人技能実習制度とは]より)

玉腰 わたしが勤める機関(監理団体)は、土木建設業に従事するフィリピン人の受け入れが多いので、わたし自身が語る「技能実習制度」のお話は偏りがあるかもしれません。ニュース報道やルポルタージュなどで紹介されている「奴隷労働」な話ではないので、逆に「本当か?」と思われるかもしれませんが、あくまでもひとつの例として、わたしが見聞しているままをお話しできればと思います。

 コロナ禍だった2020年は技能実習生にとって、一言でいえば「寂しい一年」だったようです。

 例年なら、一年に一度、母国の家族のもとに帰省するのを楽しみにしている人たちがいますが、それができませんでした。移動途中に感染して家族にも感染させてしまうのが心配だったからです。それ以外にも、隔離滞在用のホテル代や日数も余分に必要でした。フライトが不順だったので予定も組みづらくなっていました。そのため、帰国を楽しみにして、貯金を毎月こつこつためていた人たちもあきらめざるを得ませんでした。

 例年なら、ゴールデンウイークやお盆休みなどの長い休みのときには、勤め先の人(日本人)たちに花火や盆踊りなどの遊びに連れて行ってもらうのですが、そうしたイベント類も一切中止でした。

 フィリピンから日本への入国も制限されたので、新しい実習生が来ることも春からストップしました。自国での面接試験に受かり、日本語の勉強も終わり、あとは日本に来るだけだった後輩たちが母国で待機させられる状態になったのです。なかには、弟が来るのを待っていた実習生もいました。10月に入国が再開されたときには、久しぶりの再会が「いよいよか?」と期待を高めたのですが、入国の順番が回ってくるより先に、年末にまた入国ストップがかかってしまい*2 、兄弟の再会はかないませんでした。

*2 詳細は、外務省[国際的な人の往来再開に向けた段階的措置について]参照

玉腰辰己 Tatsumi Tamakoshi

1966年愛知県生まれ。日本大学芸術学部卒業。西武百貨店、ギャガ・コミュニケーションズ、上海・台北・シンガポール留学、日本語教師、笹川平和財団研究員、聖心女子大学非常勤講師などを経て、2019年から岩手・盛岡に移住し、外国人技能実習制度の監理団体で実習生受入企業の監査を担当している。博士(国際関係論、早稲田大学)。共著に『日中関係史 1972-2012 III 社会・文化』(東京大学出版会)、『証言 日中映画興亡史』(蒼蒼社)がある。国際関係でも政府間関係より社会間関係に関心があり、外国人労働者とこれからの日本社会のあり方を探求している。