「在京外国人生徒対象入試」はその内容が重要

 文部科学省の「学校基本調査」によれば、国内における全世帯の高校進学率(通信制を含む)は98%を超えている*10 。しかし、「外国にルーツを持つ子どもたち」の高校進学率はそれよりも明らかに低い状況だ。東京都は、「在京外国人生徒対象入試」の実施*11 などで受入れ枠を増やしてはいるものの、義務教育ではない「高校」への入学はハードルが高い。

*10 文部科学省「学校基本調査-令和元年度結果の概要-」より
*11 令和3年度(2021年度) 東京都立高等学校入学者選抜における「在京外国人生徒対象4月入学生徒の選抜」の事前応募資格確認の実施状況について 参照

枦木 個人差はありますが、現在(2020年度)185校ある都立高校の中で、日本語指導が必要な「外国にルーツを持つ子どもたち」が入学できる高校は限られています。子どもの意思での学校選択というよりも、「入ることのできる」高校、「入った後で日本語支援がある」高校が進学先の対象になります。彼ら彼女たちと一緒に、私たちは「入ることのできる」高校を探し、入試のサポートをしている状況で、そのハードルが高いことは事実です。日本人と同じ入学試験を受けた時は、英語で100点近くとっても、国語や数学ができなければ、合格の可能性は低くなります。全日制の都立高校の入試は5教科なので、一般入試で受かるのはかなり難しいのです。

 また、外国籍生徒を対象とした特別な「在京外国人生徒対象入試」は、面接と作文による選考ですが、作文は英語か日本語のどちらかで書きます。英語を第一言語として習得していない子どもたちは、十分でない日本語で書かなければならないことも多く、やはりハードルは高いです。作文で力を発揮できない受験者のためには、むしろ、数学などの教科で、少しでも母国での学力が反映される入試をやってほしいと思います。

 全国では、東京の“在京外国人枠”のように、 “在県外国人枠”のある県もあり、「入ることのできる」高校の数は増えてきてはいますが*12 、入学者選抜の方法は、自治体によって違います。門戸をよりいっそう開くのであれば、地域格差とならないように選考方法の改善をしてほしいですね。いまや、子どもたちの国籍はかなり多様化していますから。

*12 【都道府県の高等学校における外国人生徒の受入れ】
公立高等学校の入学者選抜における、外国人生徒の特別定員枠の設定→14都道府県で設定(北海道、福島、茨城、埼玉、千葉、東京、神奈川、山梨、岐阜、愛知、三重、大阪、兵庫、奈良)
公立高等学校の入学者選抜における、外国人生徒に対する試験教科の軽減→11府県で設定(茨城、栃木、群馬、埼玉、神奈川、山梨、岐阜、愛知、大阪、鳥取、熊本)
公立高等学校の入学者選抜における、外国人生徒に対する学科試験をすべて免除 ※外国人生徒に対して、学科試験を実施しないことを指す。→3道県で設定(北海道、千葉、長崎)
(2019年/令和元年6月 文部科学省 外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議における配布資料「外国人児童生徒等の教育に関する現状について」より)

 日本語指導が必要な「外国にルーツを持つ子どもたち」は、高校に進学した後も学校生活での困難が多い。彼ら彼女たちの中途退学率は、全高校生等の7.4倍、大学や専修学校などへの進学率も低く、全高校生等の数字の6割程度にとどまっている*13

*13 中退率は、全高校生等の1.3%に対し、日本語指導が必要な高校生等は9.6%。進学率は、全高校生等の71.1%に対し、日本語指導が必要な高校生等は42.2%。(文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(2018年度/平成30年度)」結果より)

自分の居場所と学び舎を探し続ける「外国にルーツを持つ子どもたち」たぶんかフリースクールの教室内外には、生徒たちの発表作品や入試情報などが掲示されている 撮影:オリイジン

枦木 教える側の学校の先生方もたいへんです。先ほども言いましたが、子どもの国籍が多様化し、数年前からは、中東やアフリカからの子どもたちも増えています。国によって、学校制度や教育内容も違うのです。天体などの地学分野を地理として学習してきている国の生徒もいます。また、高校では生徒の進級は学力で判断され、試験で赤点が続けば進級できず、日本語が習得できないまま欠席日数が増え、それが中退へとつながっていきます。高校には、言葉(日本語)が十分でなく、文化も違う生徒たちについての理解を広げていただきたいです。「点数が取れなかったら終わり」ではなく、生徒の状況を見ながら柔軟なサポートをしていただけたら、と。

 実際、日本語指導が必要な「外国にルーツを持つ子どもたち」へのすぐれた支援をしている高校もあるので、そうした動きが広がってほしいと思います。高校に進学する(外国にルーツを持つ)子どもたちは、中学校に在籍する子どもの数よりもずっと少なく、本人がどんなに頑張っても、個人の努力で解決できないことが多いのです。周りの大人たちは彼ら彼女たちをしっかりサポートしていく必要があるでしょう。

 もちろん、先生方一人ひとりもさることながら、学校全体としての姿勢が大切です。この先、多様な子どもたちが増えていくことを想定し、日本語だけでなく、母語も大切にするなど、教育の中身を再考し、柔軟に変えていくことが重要だと思います。