文芸春秋に入社して2018年に退社するまで40年間。『週刊文春』『文芸春秋』編集長を務め、週刊誌報道の一線に身を置いてきた筆者が語る「あの事件の舞台裏」。週刊誌記者には「張り込み」のイメージを持っている人も多いでしょう。今回は証拠を押さえるための苦労をお話しします。(元週刊文春編集長、岐阜女子大学副学長 木俣正剛)

警戒されないのは
ホームレスの格好?

写真:調査週刊誌の記者は日々、証拠を押さえるためにどんな「張り込み」をしているのか(写真はイメージです) Photo:PIXTA

 週刊文春記者といえば、「張り込み」のイメージなのでしょう。私が教えている女子大でも学生からの最初の質問は、「張り込みって大変ですか?」です。

「文春ってスキャンダル記事ばっかりやっているんじゃないよ」、というホンネはグッと堪えて、面白い話から始めます。

 一番上手くいくのは「ホームレス」に扮装することです。見知らぬ人が近所を歩いていると、脛に傷を持つ人は警戒されます。警戒されないのはホームレスのような格好をした人間で、もちろん近所の人たちの記憶には残りますが、まさか記者が「張り込んで」いるとは思いません。

 刑事ドラマでは、車に乗ってアンパンをかじって「張り込んで」いますが、あれは警察という捜査権を持つ人々だからできること。民間人がやったら、すぐ「どこかへ行ってくれ」となります。かつて写真週刊誌は、酒屋の車やタクシーに似た車を持って張り込んでいましたが、今は毎日車種の違う車をレンタルできる店があります。

 私が命じたことではないのですが、若いチームが担当していたスキャンダル写真の張り込み場所が、東京の皇居近くのお堀端だったときがありました。この上なく張り込みにくい場所だったためホームレスに仮装したという話を後で報告されたときは、部下の気概に涙が出そうになりました。