フィア(恐れ)・アプローチでは
うまくいかない

 著者らの対話を、さらに続けます。

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由井 どんな管理職の下に行くかで、モチベーションが変わる。それは、広い意味での評価があるからだと思います。ということは、上司がマネジメントをちゃんとやる、となったら、みんなモチベーションが上がる可能性があるということだと思います。

吉澤 結局、「こういうことを言うと評価が下がる」とか、「怒られる」とか、「バカにされる」とか、そんな心配がなくなるだけで、ガラッと変わるんじゃないかと思いますね。

本間 ジョン・コッター (注1)の「変革の8ステップモデル」の話を私は好んでするのですが、その最初のステップは「危機感を高める」です。でも、私は「危機感」に違和感を覚える。というのは、多くの企業で経営トップが「今の若手には危機意識が足らん」と言う。それは事実なのかもしれないけれど、実はみんなもう「危機意識の醸成疲れ」をしていて、「またですか?」という反応なのではないかと思う。

由井 私は、そもそも危機感で人は動かないと思っています。その点で、何かないのでしょうか、危機感ではなくドライブさせるものが。

吉澤 本書でケーススタディとして取り上げた企業は、いずれもある種の危機感はあるはずですが、それを前面に出して煽り立ててやっているケースは一つもありません。工夫を凝らして楽しめる研修をするとか、仕掛けがもっと知的なアプローチですし。

本間 そう、フィア・アプローチじゃない。企業が育成に関する制度を広めようとする、「仕事なくなるぞ!」みたいなフィア・アプローチが多いし、それでみんなが前向きになり成長する、という話は聞いたことがありません。

吉澤 どんな会社にもピンチはあります。そのときに危機感でドライブするという場面も、ある。ただ、その反対側の安心感や、あるいは高揚感、そういうものを場面場面で選びながら進めている会社がうまくいっているように感じます。

(注1)John P.Kotter(1947- )。ハーバード・ビジネス・スクールの松下幸之助記念講座名誉教授。企業におけるリーダーシップ論の権威として知られる。

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 1on1について、それが「部下のための時間」である、と説明すると、「そんなに部下に気を使う必要があるのか?」と否定的なコメントをする経営者やマネジャーがいます。おそらくそれは、上意下達のコミュニケーションを良しとする発想による反応のような気がします。

 もちろん、上意下達で望む目標を達成しているのであれば、それを続ければいいかもしれません。しかし、本当に思い描くような成果を上げられているでしょうか?

 もし、思うような成果が上げられていないとすれば、それは組織の何が原因なのでしょう。

 1on1の目的は、部下に気を使うことではありません。対話によって風通しのいい職場をつくり、心理的安全性を確保する。そして、良質なフィードバックによって、部下が成長することが大きな目的です。

 とはいえ、肝心なことは、さらにその先にあります。

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由井 「やっぱり人の成長は大事だよねー」というところだけしか見ていない担当者だと1on1もうまくいかない、ということを、すごく感じます。最も肝心なのは、その施策がビジネスにちゃんとつながるか、にあります。つまり、目的をどこに置いているか、によって成否が分かれると思います。

本間 それは、この1、2年、私がずっと考えている課題に対して、一番近いコメントですね。

  阿吽の呼吸が通用しなくなった今、言葉を重ね合わせて、意味をしっかり理解し合うということが、組織には欠かせません。人の成長と、組織の成長が一致することが1on1が目指すゴールです

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 1on1は、職場のコミュニケーションを活性化させるだけでなく、メンバーの成長を促す手法です。書籍『1on1ミーティング』では、導入した企業の事例も紹介しています。

「どんなステップで導入したのか」、「どんな試行錯誤があったのか」、「どんな成果が上がったのか」。そこにはそれぞれの考えが反映された、さまざまな取り組みが見て取れます。

 ぜひ、本書をご一読いただければと思います。