残念ながら、現在はまだ、口腔顔面痛を専門的に診断治療できる環境が整っていないため、三叉神経領域の帯状疱疹がラムゼイハント症候群と合併し、帯状疱疹後神経痛と後遺症に移行していたことを把握できる医師に出会えなかったんですね。そのため、痛みの診断、治療が遅れてしまったのです」

横浜市の林市長もかかった
ラムゼイハント症候群

 その後、シンペイさんは、口腔顔面痛の専門医から通院先の主治医に対して診査結果と治療方針の診療情報を提供してもらい、神経障害性疼痛(とうつう)治療薬で薬物療法を開始した。

 結果、痛みはみるみる改善し、薬物療法開始1カ月後にひげそりができるようになり、治療開始1年目には、痛みは改善するとともに、抑うつ状態も改善し、居住市内にある大学の生涯研修で歴史講座を受け、富士登山もした。

「もっと早く、正しい診断がついて、治療してもらえていたらと思うと、悔しくてなりません。私ね、本当につらかったんですよ。死ぬことも考えました。まれなケースなら、仕方ないですが。でも、わかってよかった。死なないでよかった」

 ちなみにラムゼイハント症候群は今年、横浜市の林文子市長も発症。帯状疱疹から始まって一時は退院したものの、すぐに再入院。結局、1カ月もの間入院を余儀なくされた林氏は、当初の帯状疱疹の痛みを「左耳に突然、鉛筆を刺されたような痛さがあった」と語っている。

 まれではあるが、50代以降では、帯状疱疹の後遺症として帯状疱疹後神経痛が比較的高率で発生する。「一番の予防は、帯状疱疹にならないこと。50歳以上の方々には、積極的に帯状疱疹のワクチンを接種していただきたいです」と、口腔顔面痛の専門医は強く勧める。

※本稿は実際の事例・症例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため患者や家族などの個人名は伏せており、人物像や状況の変更などを施しています。

(医療ジャーナリスト 木原洋美、監修/慶應義塾大学病院歯科・口腔外科学教室非常勤講師、口腔顔面痛指導医、専門医 和嶋浩一)