ここで私は、受講者であるマネジャーに問いかけます。「あなたが若い頃、上司のどういうところが嫌でしたか?」。そうすると、みんなハッと気付きます。ダメ出しばかりで、言いたいことが言えなかった。上司の一方的な意見を押し付けられるばかりで、工夫したり、努力する気が失せてしまった ……。

 そこに気づくと、彼らの話法は変わります。部下の良いところを認め、期待をかけることで生じる効果について、あらためて必要性を感じるようになるからです。

 同時に、部下について知っていたつもりだったけれど、知らないことが多い、ということにも気がつきます。特に上意下達の文化が強い会社ほど、部下の仕事に対する価値観や実現したいこと(WILL)を把握していない。しかし、誰もが確信を持って正解を言えない変化の時代にあって、社員のWILLを問わない会社に可能性はありません。

 このように、1on1の実践を進めると、上司と部下との間の本質的な問題が明るみに出てきます。そして、上司が気づきを得ることで、部下への関与のしかたが変わります。だからこそ1on1は、多くの人のパワーを引き出す手法と言えるのです。