いわく、「これまでの2倍の感染者数を想定せよ」「1月の東京のように感染者数が1〜2週間で急激に増加する場合の対応も考えよ」「不要不急の入院や手術などを止めることも考えよ」と懇切丁寧に書かれている。

 文書の終盤には「チェックポイントのイメージ」なる表も用意され、この点に注意して医療提供体制を整備しなさい、という都道府県などに対する「指南書」の様相だ。

 しかし、文書通りにいくのか懸念は拭えない。詳しくは後述するが、「カネ」「権限と責任」「安全」の3つの問題が解消されていないからだ。

各医療機関が
コロナ診療にいまだ「及び腰」の理由

山本尚範(やまもと・たかのり)/名古屋大学大学院医学系研究科救急集中治療医学分野医局長。救急専門医、集中治療専門医。現在は名大病院で救急・集中治療に従事している山本尚範(やまもと・たかのり)/名古屋大学大学院医学系研究科救急集中治療医学分野医局長。救急専門医、集中治療専門医。現在は名大病院で救急・集中治療に従事している。

 なぜ各医療機関はコロナ診療にいまだ「及び腰」なのか。

 まず、新型コロナの患者を診療するとコストが増すだけでなく、風評被害でコロナ以外の患者が減り、経営が悪化するという懸念がある(カネの問題)。さらに、行政から「お願い」はされても「命令」されない以上、各医療機関はこれまで自分たちが慣れ親しんだ医療を大きく変えるリスクを冒さない(権限と責任の問題)。そして、中小の医療機関を中心にヒト・カネ・ノウハウが不足しているから、医療従事者自身や新型コロナ以外の患者への感染の不安がある(安全の問題)。

 国の反論はこうだろうか。

「既に多くの補助金や診療報酬の改定をしており、新型コロナウイルス患者を診療をしても黒字になるはずだ」

 確かに、大規模な医療機関にはそれらの制度を活用して、黒字に転じたところもある。しかし、補助金や診療報酬をうまく活用できていない医療機関が多いのが現実だ。

 制度はときに複雑で、それに精通している人材や部署を持つ組織は対応可能だが、中小零細企業には難しいことも多い。日本の医療機関数は8000余で世界一多く、大半が中小だ。大病院と同じように制度をうまく活用できるとは限らないからだ。

 また新型コロナの診療はしていないが、コロナ禍で患者が減り、収入が減少した多くの医療機関に対する支援は不足している。補助金はわずかで、原則的には融資、つまり借り入れである。無担保・無利子で償還期間も長く設定されているが、患者数の回復が見込めない状況で借金をするのはハードルが高い。実際に多くの医療機関はいまだ経営が苦しい。看護師らの待遇も大きな話題や政治課題になったのに、実際の改善は不十分で、離職者は増えている