これまでアウトプレースメントを活用する場合には、一人あたり約数十万円相当のコストをかけて、コーチング、再就職先の紹介、面接の練習機会などのサービスを受けさせていました。一方のアウトスキリングでは、同じコストをかけつつも、辞めてもらう従業員本人の希望も聞きながら、これから先の成長産業で就職するのに有利となるスキル習得機会を退職前に提供します。

 新しいスキルが身につけば、それを武器に再就職できる可能性が高まるとして、アウトスキリングの対象となった従業員のアンケート結果でも、「前の勤務先に感謝している」という声が上がるといいます。

アウトスキリングは
企業と個人の「共倒れ」を防ぐ

 欧米企業では解雇に伴い、こうした対応が行われている一方、日本企業においては、解雇そのものが一般的にタブーとされてきました。そのため、過去を振り返ってみても、不況による人員削減を余儀なくされた際には、かなり丁寧なプロセスと手厚い支援策が実行されてきたといえるでしょう。

 現在、新型コロナの影響を直接的に受けた観光業や小売業などを中心に、日本でも一部の企業で人員削減が始まってはいますが、業績が悪化している企業であっても「人員削減はしない」と雇用の維持を宣言するところがあります。

 雇用を守ろうとする姿勢自体はすばらしいものです。しかし、消費者の消費マインドや行動習慣はこの1年で大きく変わりました。また、2021年になって騒がれている新型コロナウイルスの変異株がこの後、どの程度、私たちの経済活動に影響を与えるのかもまだ見えていません。本当に「人員削減をしない」まま、日本企業が耐えられるのかの見通しは、まったく立っていない状況なのです。

 この場合の最悪のシナリオは、企業が突然、雇用維持を諦めることです。「すみません、持ちこたえられませんでした、これから人員整理します」という事態が、企業の財務体力が落ち切った状況で起きうるのです。

 アウトスキリングは、ある程度の財務体力があるうちにしか、実行できません。企業と従業員の「共倒れ」を防ぐために、追い込まれる前の「アウトスキリング」が、日本企業でも検討の俎上にのぼる日は遠くないかもしれません。

(リクルートワークス研究所 特任リサーチャー 後藤宗明)