多くの日本企業が推進しようとしているデジタルトランスフォーメーション(DX)。DXの成功には、一部の優秀なデジタル人材を登用するだけでなく、さまざまな現場に立つ多くの人材の能力の再開発(リスキリング)が欠かせない。では、DXにおけるリスキリングは、どのように行うべきなのか。また、既存の日本型の人材開発(OJT)では不十分なのか。リクルートワークス研究所の石原直子・人事研究センター長が解説する。
なぜDX時代には
社員のリスキリングが必要か
2020年に世界を襲った新型コロナウイルスの脅威は、意外なことに、日本では掛け声ばかりであまり進んでいなかったデジタルトランスフォーメーション(DX)を、一気に加速させることになりました。新型コロナの感染防止のためにいわゆる3密を避けることが、あらゆるビジネスのプロセスを「非対面」、すなわちデジタル環境下で進めることにつながったからです。
営業担当者であれば、顧客のところに足しげく通うことも、飲酒をともなう接待の席で大事な話にはずみをつけることもできなくなりました。また、出社が禁じられている企業では、契約書や発注書を紙で作ろうとすれば、プリントアウトや押印にこれまで以上の手間と時間がかかり、会議やホウレンソウも対面ではできなくなりました。こうして、はからずも多くの人と企業が「デジタル空間で、デジタルツールを使って仕事を進める」ことに急速に習熟していったのです。
DXの本質は、デジタル技術を活用して、今のビジネスモデルの革新をはかること。そうなれば、営業の現場、製造や流通の現場、人事や総務や広報といった本社業務の現場など、さまざまな現場で、仕事の進め方が大いに変わることが予測されます。となると、それらの現場で働く多種多様な人々がおしなべて、新しいスキルを身につけることが求められます。