楠木建 一橋大学教授「経営の王道がある。上場企業経営者にぜひ読んでもらいたい一冊だ」と絶賛、青井浩 丸井グループ社長「頁をめくりながらしきりと頷いたり、思わず膝を打ったりしました」と激賞。経営者界隈で今、にわかに話題になっているのが『経営者・従業員・株主がみなで豊かになる 三位一体の経営』だ。
著者はアンダーセン・コンサルタント(現アクセンチュア)やコーポレート・ディレクションなど約20年にわたって経営コンサルタントを務めたのち、投資業界に転身し「みさき投資」を創業した中神康議氏。経営にも携わる「働く株主®」だからこそ語れる独自の経営理論が満載だ。特別に本書の一部を公開する。

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指名委員会制度は
「リスクテイク」のためにある

 指名委員会制度をリスクテイクにうまく生かしている事例として、ヤマハ株式会社の中田卓也社長のコメントを紹介します(中田社長の経営哲学にご関心がある方は弊社Webサイトで公開している「みさきニューズレター」をご覧ください[*1])。

*1 『みさきニューズレター』第14号、2019年10月

中神 私は日本取締役協会による「コーポレート・ガバナンス・オブ・ザ・イヤー」の審査委員の一人として、先日、Grand Prize Companyにヤマハさんを選ばせていただきました。私が考える選考理由は、「実質と形式を同時に」変革してきたから、というものです。経営の実質をどんどん変え、収益性を劇的に上げてこられた中で、指名委員会制度導入などの形式をどのように整えてきたのかをお話しいただけますでしょうか。

中田 形式を満たすために取り組んできたという感覚は一切ありません。この会社を良くするためにこの形を使わせていただいているということです。

中神 それが本来的なガバナンス改革の位置づけですね。具体的には指名委員会等設置会社への移行、社外取締役比率の引き上げ、執行役の導入など、これまでに様々なガバナンス改革を実行されてきました。

中田 実は監査等委員会設置会社も選択肢として考えたことがあります。指名委員会等設置会社に決めた理由は、執行役員の多くがことあるごとに「それは取締役会で決めてほしい」と言っていたことなのです。これはいけない。社外の目で経営の妥当性などをチェックしてもらうのは良いが、「決めるのは自分たちだ」という強い覚悟がなければダメだ、と。

 調べてみたら、執行役は株主代表訴訟の対象になり得るじゃないですか。別に執行役員を脅すつもりはないですが(笑)、そうなるかもしれないという強い危機感を持って執行にあたってほしいと考え、執行役員という制度から、指名委員会等設置会社が要求する執行役という制度に変えました。

中神 モニタリングボードという先進的制度を導入されたということですね。モニタリングボードの下で執行と監督がアクセルとブレーキとして機能するという仕組みは、事業改革とどのように連動しているのでしょうか?

中田 我々の強みをきちんと理解しているのは、あくまでも内部の役員です。事業を良くわかっている人間が意思を持って「こうしたい」と議論することで、ヤマハの強みが最大限に発揮される。これがアクセルの基本です。

 一方で、「我々の常識は世の中の非常識」でもあります。たとえば工場投資など、ウチウチでは大義を語れてしまうものに対して「ふーん、それで? 実際のところ、ROIはどうなの?」といったチェックを、世間の常識から社外役員が行う。そういうブレーキがきちんと踏まれる安心感があるからこそ、執行側は思い切ってアクセルが踏めるのです。ガバナンスの形式というものは、実質を確かなものにするための手段に過ぎません。

中神 ヤマハの有価証券報告書を読み込んでみると、リストリクテッド・ストック(RS、譲渡制限付株式)にクローバック条項(将来不正が発覚した場合など、過去に支払った役員報酬を返還させる仕組み)などがあります。仕事柄、多くの会社の評価報酬制度を分析していますが、とても珍しいと思います。