楠木建 一橋大学教授が「経営の王道がある。上場企業経営者にぜひ読んでもらいたい一冊だ」と絶賛、青井浩 丸井グループ社長が「頁をめくりながらしきりと頷いたり、思わず膝を打ったりしました」と激賞。経営者界隈で今、にわかに話題になっているのが『経営者・従業員・株主がみなで豊かになる 三位一体の経営』だ。
著者はアンダーセン・コンサルタント(現アクセンチュア)やコーポレート・ディレクションなど約20年にわたって経営コンサルタントを務めたのち、投資業界に転身し「みさき投資」を創業した中神康議氏。経営にも携わる「働く株主®」だからこそ語れる独自の経営理論が満載だ。特別に本書の一部を公開する。
儲かりにくい眼科市場で
どう利益を出すか
参天製薬は眼科というニッチな領域で、特に医療用眼科薬に特化している医薬品メーカーです。医療分野には消化器系や循環器系といったたくさんの分野があるのですが、参天製薬が事業領域にしている眼科という分野には、本来、メーカーが儲かりづらい特性がいくつかあります。
その一つは、すべての診療科の中で最も開業医割合が多く、しかも中小規模の専門クリニックが全国に点在しているという点です。国内の眼科医は約1万3000人いるのですが、その6〜7割が開業医となっていて、大病院に多くの医師が属する内科とは市場構造が大きく異なります。
大病院という数少ない顧客を攻略すれば効率的な営業ができる内科分野と違って、小さな取引を一つずつ積み重ねていかないといけない眼科分野は、そのままでは非効率で儲かりづらい分野なのです。
こういったセグメントに対して参天製薬は、全国に支店網を構築し、全国1万3000人の眼科医に対して、400名ものMRを配しています。これらMRの人々は、眼科医に薬の最新情報を提供するだけでなく、開業医が抱えるさまざまな悩みの相談にも乗り、院内勉強会の開催、病院経営に関する情報誌の配布、患者向け小冊子の配布、診療所内のレイアウトなど、実に幅広いアドバイスを行っています。眼科医がいくら小さなクリニックとはいえ、製薬メーカーのMRが病院経営の相談にまで乗るというのはちょっと驚きです。
ニッチで小さく、そして手間暇のかかる分野に、拠点網やMRの人件費、そして病院経営へのアドバイスまでできるほどの教育といった巨大なコストを投じて割に合うのかという疑問が頭をよぎりますが、実際には参天のMR一人当たりの売上高は3.3億円と、他の国内大手製薬会社と比べてもダントツに高い水準です。なぜでしょう。