役員が長期で物事を
見るようになった一言
RSのテクニカルな設計にも気を配り、「みんな、今だけでなく10年後のヤマハのことを考えないと、せっかくもらった株式が紙くずになるよ」、「もらった株式を生かすも殺すも10年後の経営陣にかかっているわけだから、自分の部署だけで優秀な人材を囲い込むのではなくて、次の経営陣をみんなで育てる感覚で経営していこうよ」と訴えたら、皆も10年後のことを考え、将来の経営者候補人材を出しあうようになりました。実はうちにはこんな優秀な人間がいて、この人間を経営陣に育てればヤマハの将来の企業価値が高まる、と。
中神 改革が徹底していますよね。技術的に精緻でもある。執行役員という任意の制度から、法的裏付けのある執行役制度にすることで、経営陣個々人に責任を意識させる。RSを導入するだけでなく、クローバック条項を入れることで経営陣の目をしっかりと将来に向けさせる。ちょっと我田引水かもしれませんが、中田さんの背景思想は「経営が良くなれば企業価値は上がる、価値が上がれば株価もそのうち上がる」という、みさきの考え方と相通じるところがあるような気がします。
いかがでしょうか。中田社長は、ついこの前までわずか2%程度だった営業利益率を12%程度まで劇的に引き上げた立役者です。時価総額も就任前の2000億円規模から、いまや1兆円規模に。業績や株価といった定量面だけでなく、企業風土や働く人の生きがいという意味でも、ヤマハはいまやすっかり生まれ変わったようです。指名委員会制度をうまく使って、「眠れる獅子」を呼び覚ました興味深い事例でもあるのです。
(本原稿は『経営者・従業員・株主がみなで豊かになる 三位一体の経営』 の内容を抜粋・編集したものです)