「なぜ?(why)」と問わない
このとき気をつけるべきことは、「なぜ?(why)」と問うのをやめてみることです。
「なぜ?」ではなく、「どんなときに?」「いつ頃から?」「どんなきっかけで?」のようにwhenを問うたり、「どんなふうに?(how)」や「関わっている人は誰だろう?(who)」と自問自答してみるのです。
「なぜ?(why)」と問うと、今のナラティヴとは違う複雑な風景を見ることができなくなってしまいます。
たとえば、「なぜ部下はモチベーションが低いのだろう?」と問うと、マネジャーの批判的な視点が強化され、「部下は若手世代で、自分で事業を開発したことがない。事業に対しての責任感が足りないからだ」という理由づけになりがちです。
そうではなく、もっと相手の複雑さを知るには、「いつ頃から部下はモチベーションがなくなってきたのだろう?」と問うと、いくつかエピソードが浮かんでくるかもしれません。既存のナラティヴとは違う風景の観察が可能になるのです。
他者とともに
問題に向き合っていく姿勢
こうした解きほぐしから具体的な手立てを考える手順を踏むと、お手上げだった「孤立状態での自分助け」の状況から抜け出す手がかりが得られます。
先ほどの依存症ケアの方法も同様です。自分がなぜアルコールなどの薬物を使い続けなければならなかったのかを解きほぐしていくプロセスは、光明を見出すアプローチです。
大切なのは、一人でこの作業を行うのでなく、他者と行うことです。
対話は、他者とすることによって、自問自答するよりはるかに大きな力を発揮します。
他者から自分がどう映るのか、フィードバックを得ながら、起きている問題について向き合いましょう。
他者とともに問題と向き合っていこうと取り組み始めたとき、そこに関わる人々は、それまでとは別の道を歩み始めているのです。
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経営学者/埼玉大学 経済経営系大学院 准教授
1977年、東京都生まれ。2000年、立教大学経済学部卒業。2002年、同大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。2006年、明治大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得。
2006年、早稲田大学アジア太平洋研究センター助手。2007年、長崎大学経済学部講師・准教授。2010年、西南学院大学商学部准教授を経て、2016年より埼玉大学大学院人文社会科学研究科(通称:経済経営系大学院)准教授。
専門は、経営戦略論、組織論。ナラティヴ・アプローチに基づいた企業変革、イノベーション推進、戦略開発の研究を行っている。また、大手製造業やスタートアップ企業のイノベーション推進や企業変革のアドバイザーとして、その実践を支援している。著書に『他者と働く――「わかりあえなさ」から始める組織論』(NewsPicksパブリッシング)がある。
日本の人事部「HRアワード2020」書籍部門最優秀賞受賞(『他者と働く』)。2007年度経営学史学会賞(論文部門奨励賞)受賞。