三流リーダーは<br />組織【を】変える、<br />一流リーダーは<br />組織【が】変わる

2020年の話題の書『他者と働く』の著者、宇田川元一さんの待望の新刊『組織が変わる』が発売早々、次のような感想が続々届いている。
早速夜更かししそうなくらい素晴らしい内容。特に自発的に動かない組織のリーダーについてのくだりは!
読み始めていきなり頭をパカーンと殴られた。慢性疾患ってうちの会社のこと? すべて見抜かれている
『他者と働く』が慢性疾患の現状認識ツールなら、『組織が変わる』は慢性疾患の寛解ツールだ
言語化できないモヤモヤの正体が形になって現れる体験は衝撃でした
『組織が変わる』という極めてシンプルなタイトルに込められた思いとは何か。
この本で宇田川氏は「組織を変えようとしたら、必ず挫折する」という。
「組織を変えたい」と思っている人がハマる落とし穴とは何か。
組織の問題を感じている私たちが、本当にやるべきことは何か。
いよいよ「だから、この本。」最後の連載! 埼玉大学の宇田川氏を直撃した。
(構成・イイダテツヤ、撮影・疋田千里)

三流リーダーは<br />組織【を】変える、<br />一流リーダーは<br />組織【が】変わる宇田川元一(Motokazu Udagawa)
経営学者/埼玉大学 経済経営系大学院 准教授
1977年、東京都生まれ。2000年、立教大学経済学部卒業。2002年、同大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。2006年、明治大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得。
2006年、早稲田大学アジア太平洋研究センター助手。2007年、長崎大学経済学部講師・准教授。2010年、西南学院大学商学部准教授を経て、2016年より埼玉大学大学院人文社会科学研究科(通称:経済経営系大学院)准教授。専門は、経営戦略論、組織論。ナラティヴ・アプローチに基づいた企業変革、イノベーション推進、戦略開発の研究を行っている。また、大手製造業やスタートアップ企業のイノベーション推進や企業変革のアドバイザーとして、その実践を支援している。日本の人事部「HRアワード2020」書籍部門最優秀賞受賞(『他者と働く』)。2007年度経営学史学会賞(論文部門奨励賞)受賞。

──前著のタイトルは『他者と働く』で、今回が『組織が変わる』。宇田川先生の本はシンプルなタイトルが非常に印象的ですが、こうしたシンプルな言葉にはどんなメッセージが込められているのでしょうか。

宇田川元一(以下、宇田川):前著の話からすると、「他者」すなわち「人」であることをきちんと捉え直してほしい、という思いがありました。

 仕事をしていると、つい相手を「不都合な存在」「物」として捉えてしまうことがありますが、人間存在として捉え直す。それこそが「他者と働く」ということである。そんな思いを込めたつもりです。

 一方、今回の『組織が変わる』に関しては、組織の見えている風景が変わる、という意味です。
「2 on 2」という新しい対話の方法を紹介しているので、当初はそれを前面に出したタイトルのほうがいいんじゃないか、という意見もありました。

 でも、私としては「2 on 2」という方法にこだわっているのではなく、その前提となる思想や対話がもたらすものこそが大事だと思っています。

「こういう考え方で、こういうやり方をしていくと、組織の見えている風景が変わりますよね」、そんなことをタイトルに込めたつもりです。

──『組織が変わる』の中に、「組織を変えようとすると必ず挫折する」とあります。このあたりが妙に逆説的で興味深かったのですが、その点について著者としてどんなふうに考えていますか?

宇田川:まさにそれは「組織を変える」ではなくて『組織が変わる』というタイトルをつけたところにポイントがあるのです。

 そもそも組織とは、実態のないものじゃないですか。あくまでも組織とは概念ですよね。

 これは私の立脚する理論的基盤から言えることです。
 たとえば、社内のどこかに定点カメラを置いてずっと撮影していても、組織なるものは映りません。人がわーっとやってきて、みんないずれ帰ってしまう。そんな姿が映るだけです。映るのは、人々が組織的な行為をしている姿です。

 よく組織文化とか言いますけど、結局、それも抽象概念です。

 人がつくった抽象的な概念を、概念的に変えようとするのは、もともと「ないもの」を変えようとしているわけで、どうしていいかわかりません。

 あるのは「行為」「行い」の部分ですよね。

 だから、変えるとしたら組織や文化ではなく、「行い」であるはずです。

 よく「組織を変えるには、文化(カルチャー)を変えなきゃいけない」と言いますが、私にしてみれば「それって結果でしょ」と思うわけです。

 たとえば、事業が停滞している企業があって、「うちの文化を変えなきゃいけない!」ということはありますが、でも、文化で困っているんでしょうか。

 そういうところを抽象的にしてしまうと、結局、どうすることもできなくなってしまう。
 だから、もっと手触りのある問題認識と手立てを考えられるようになることが大事だと思っています。

──確かに、定点カメラを設置しても「組織は映らない」というのは絶妙な表現ですね。

宇田川:実際、どんな人も「組織」に困っていません。そんな実態のないものに、困っているわけではないのです。

 私は精神障害の世界を見ていると、すごく組織の問題と通じるものを感じるのですが、別に当事者の方も「統合失調症」それ自体で困っているわけではありません。それは医学上の分類ですよね。

 実際に困っているのは、幻聴が聞こえてきたり、その幻聴が悪口を言ってくることや、人から孤立してしまうことなど、もっと具体的なことではないでしょうか。

 結局、大事なのは「実際、何に困っているのか」にきちんと向き合うことですが、世の中の常識に照らして「これに困っている」とつい私たちは考え、そのことに「困らされてしまっている」ように思います。その結果、自分やみんなが感じる痛みに向き合うことが難しくなってしまっているのではないでしょうか。

『組織が変わる』で紹介している「2 on 2」は、手触りのある問題の認識を確立していくことを通じて、手触りのある手立てを講じることのために考えました。

 だから、「2 on 2」をやって、組織を変えよう、という話ではありません。

 そうした取り組みを続けていると、確かに「組織の見えている風景」が変わってくることはあります。

 つまり、結果として「組織が変わる」ことがあるわけです。

 周りから見れば、「あなたは組織を変えたね」と言われることもあるかもしれませんが、それはあくまでも結果論であって、「組織を変えよう」として変えられるものではないと、私は思っています。

──非常に面白い指摘ですね。今回の本は『組織が変わる』というタイトルですが、そこに込められているのは「組織を変えようとするのではなく、組織というのは、結果として変わっていくものだよ」という意味での『組織が変わる』なのですね。

宇田川:そうだと思います。「組織を変えたい」という人がたまにいますが、「組織を変えよう」と思ったのはどういうきっかけからだったのか。そのことを考えられると、もっと具体的な手立てにつながるのではないかと思うのです。