リモートワークが長期化している今、わかりあえない上司と部下の「モヤモヤ」は最高潮に達しているのではなかろうか。さらに、経営層からの数字のプレッシャーが高まる一方で、
「早速夜更かししそうなくらい素晴らしい内容。特に自発的に動かない組織のリーダーについてのくだりは!」
「読み始めていきなり頭をパカーンと殴られた。慢性疾患ってうちの会社のこと? すべて見抜かれている」
「『他者と働く』が慢性疾患の現状認識ツールなら、『組織が変わる』は慢性疾患の寛解ツールだ」
「言語化できないモヤモヤの正体が形になって現れる体験は衝撃でした」
職場に活気がない、会議で発言が出てこない、職場がギスギスしている、仕事のミスが多い、忙しいのに数字が上がらない、病欠が増えている、離職者が多い……これらを「組織の慢性疾患」と呼び、セルフケアの方法を初めて紹介した宇田川氏。我々は放置され続ける「組織の慢性疾患」に、どんな手立てを講じられるのだろうか。著者の宇田川氏を直撃した。
誰かすごいリーダーがきて、
組織を変えてくれるのか
私たちには危機感がないわけではありません。
中期経営計画でも、イノベーションの推進や企業変革が重要課題として叫ばれています。
経営層からは、
「自分たちが若い頃はもっといろいろな職種や事業の人たちとの垣根が低かった」
「今では技術者と営業が日常的に会話する光景は見られない」
「各職掌範囲から出ようとしない」
「どうしてこんなに部門間のつながりが希薄になってしまったのだろう」
という嘆き節(ぶし)が数多く聞こえてきます。
このような中、企業の各階層の人たちは、こんなふうに感じているようです。
□大企業のミドル・マネジャーは、過去に何度も変革に取り組んできたが、結局変わらず、変革に「うんざり」している
□若手メンバーは、頑張ってよい会社に就職したはずなのに、「会社に裏切られた」と感じ、自らの市場価値を上げようとキャリアアップや転職活動に躍起になっている
□大企業は、会社の財務状態は表面的には悪くないため、大変革に踏み込む「必然性がない」と思っている
□元気だったベンチャー企業も、徐々に「大企業病」にかかってきているのではないか
誰も今のような状況を望んでいない。
けれども、会社は一向に変わらない。誰かすごいリーダーが大鉈(おおなた)を振るって大改革をしてほしいと、ひそかに思っています。
つまり、みんな、同じ問題を抱えているわけです。
私には「自分以外の誰かがやってくれる妖怪」がとりついているように見えてなりません。
医療現場の慢性疾患へのアプローチでは、「この病気は治るはず≒だから医者に治してもらう」という認知を変えていくところが肝だといいます。
「この病気は完治しない≒だから自分が一生つき合っていく腹決めが必要だ」という認知に変わっていく支援です。
組織における慢性疾患も同じことが言えると思いませんか?
誰か優れたリーダーが変革するのではなく、私自身から継続的に日常的な“小さな変革”を積み重ねられると認識を変えることが重要になってくるのです。
このままではまずい、だから抜本的に変わってほしいという抜本的変革への願いは痛いほどわかります。
でも、こうしたくすぶり続ける組織の根深い問題は、先に挙げたような抜本的変革とは大きく性質の異なるものであると捉えるべきです。
たとえるなら、閉塞感漂う組織の変革は、「慢性疾患」状態の変革です。
私たちは、この慢性疾患状態の企業社会に対して、異なる変革論を持たなければいけないのです。
好評連載、人気記事
☆なぜ、「なぜ?(why)」と問うのが、ダメなのか?
☆「心理的安全性の罠」にダマされるな!
☆「1 on 1」と「2 on 2」の違いってなんだろう?
☆「ティール組織にしよう」というアプローチが極めてナンセンスな理由
☆体験者が初告白!「私にとって 2 on 2 は、言語化できないモヤモヤの正体が形になって現れた衝撃の体験でした。」
経営学者/埼玉大学 経済経営系大学院 准教授
1977年、東京都生まれ。2000年、立教大学経済学部卒業。2002年、同大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。2006年、明治大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得。
2006年、早稲田大学アジア太平洋研究センター助手。2007年、長崎大学経済学部講師・准教授。2010年、西南学院大学商学部准教授を経て、2016年より埼玉大学大学院人文社会科学研究科(通称:経済経営系大学院)准教授。
専門は、経営戦略論、組織論。ナラティヴ・アプローチに基づいた企業変革、イノベーション推進、戦略開発の研究を行っている。また、大手製造業やスタートアップ企業のイノベーション推進や企業変革のアドバイザーとして、その実践を支援している。著書に『他者と働く――「わかりあえなさ」から始める組織論』(NewsPicksパブリッシング)がある。
日本の人事部「HRアワード2020」書籍部門最優秀賞受賞(『他者と働く』)。2007年度経営学史学会賞(論文部門奨励賞)受賞。