ヒカリに順番が回ってきた。

「菅平ヒカリといいます。いまは東京経――」と言いかけて、すぐに言い直した。

「東京の大学の2年生です。ゼミの実習で2週間だけ働くことになりました。短い期間ですけど、よろしくお願いします」

 そのときだった。色違いの制服を着た女性が部屋に入ってきて、何も言わずに三塚のとなりの席に腰を下ろした。三塚は遠慮しながら、その女性を3人に紹介した。

「岡崎真奈美さんです」

 真奈美は無表情のまま、いまは関東経済大学の2年生であること、そして、ロミーズのアルバイトをはじめて2年になることを伝えた。

「じゃあ、あとは真奈美さんにバトンタッチして店の説明をしてもらいます。ボクはこれで――」

 そう言い残すと、三塚は足早に事務室から出ていった。

 真奈美は仏頂面で「これを見て」と、壁に貼られた千の端店の見取り図を指さした。

「このお店はホール、キッチン、倉庫、事務室、更衣室の5カ所に分かれていて、みなさんが働くのはこのホールです」

 真奈美の説明に、高校生の2人は大きくうなずいた。

「ヒカリさん。あなた聞いてるの?」

 トゲのある言い方だった。

「理解できたかどうか、言ってくれなくちゃわからないでしょ」

 ヒカリが「はい」と言って頭を下げると、真奈美は気を取り直して、説明を続けた。

「ホールのテーブルは25卓。それぞれが4人がけだから、満席で100人ね。でも、忙しいのは昼と夜の2時間だけ」

 ずいぶんヒマな店なんだ。それがヒカリの第一印象だった。