「正規の従業員では人件費が高くなりすぎるからです」
当たり前ではないか、とヒカリは思った。
「それだけ?」
「はい、そう思いますけど」
ヒカリが答えると、真奈美はうんざりした表情で話しはじめた。
「何なの、その答え。あなた全然わかっていないわね」
「ほかに理由があるんですか?」
「私の説明を聞いていなかったの?時間帯によってアルバイトの人数が変わるって言ったでしょ」
そう言って、真奈美はもう一度シフト表を指さした。
「このお店が開いているのは、朝の7時から夜中の2時までの19時間。お客さんがいっぱいで大忙しの時間もあれば、ヒマな時間もあるでしょ。お客さんが一人もいなくても、お店を閉めるわけにはいかないし、お店が開いているということは、必ずそこで働いている人がいるわけね――」
すると、それまで黙って話を聞いていたリカが声をあげた。
「わかった!お客さんの数に合わせてアルバイトの数を増やしたり減らしたりしているんだ」
「リカちゃん、あなた飲み込みが早い!時間帯によって混み具合が全然違うから、混む時間にはたくさんアルバイトを入れて、空いている時間には少ない人数で対応するの。もし店員が全員・社員さん・だったら、お客さんが来ても来なくても、いちばん忙しい時間帯に合わせて雇わなければいけないでしょ。固定給の正社員ばかりだと、人件費も高くなるし、ヒマなときにホールに大勢いても、やることがなくて困っちゃうでしょ。あなた、そんなことも知らないの?」
最後は明らかにヒカリに向けられた言葉だった。トゲのある言い方だ。ヒカリは悔しさを懸命にこらえた。だが、言われてみればそのとおりだった。
従業員全員が常勤・固定給の社員だと、忙しい時間帯に合わせて従業員を採用しなくてはならない。だが、それでは人件費がかさんでお店の経営は成り立たない。そこでロミーズでは、固定給の正社員は店長だけにして、あとは客の入りに合わせて、時間単位でパートやアルバイトを使っているのだ。結果として、人件費の総額は抑えられる。
「どう、わかった?」
真奈美の勝ち誇った声が部屋中に響いた。