『餃子屋と高級フレンチ』シリーズ最新作、『50円のコスト削減と100円の値上げでは、どちらが儲かるか?』(林總著)の刊行を記念し、同書のPART3までを特別公開します。主人公のヒカリと会計のプロ安曇教授のコンビが赤字のファミレスを立て直す物語。第3回はPART1の後半をご紹介します。本連載は毎週月曜日更新予定です。

【前回までのあらすじ】
東京経営大学で会計を学ぶ女子大生の菅平ヒカリは、中堅ファミレスチェーン、ロミーズの経営企画室長・猪木順平と面談し、この会社で実習することを決める。猪木はそんなヒカリに「明日からウェイトレスをしてもらう」と命じて思わせぶりにニタッと笑った。

千の端店でアルバイトはじまる

 千の端店はJR山手線田端駅から歩いて10分ほどの場所にあった。

 ロミーズの第1号店というだけあって建物は古く、壁のところどころがはげ落ちていた。

 ヒカリは通用口から事務室に入った。そこには30歳すぎと思われる男が、パソコンとにらめっこをしていた。

「あの、店長の三塚孝明さんでしょうか?本社の猪木さんからご紹介を受けた菅平ですが……」

 何度か声をかけた末、やっとヒカリに気づいた男は、

「菅平さん?ちょっと待って――」
と言うと、すっと立ち上がって事務室を出ていった。

 しばらくして、オレンジ色の制服を手にして戻ってきた。

「この制服に着替えてください。更衣室はここを出た向かいの部屋です」

 ヒカリは制服を抱えて更衣室に入った。そこは4、5人がやっと入れる広さで、壁にはロッカーがぎっしりと並べられていた。ヒカリは制服に着替えると、店長の待つ事務室に戻った。

 さっきはいなかった制服姿のアルバイトたちが、楽しそうに笑いながら話を交わしていた。三塚はヒカリが戻ってきたのを見届けると、口を開いた。

「これで全員そろいましたね。簡単なオリエンテーションをはじめます。私は店長の三塚です。よろしくお願いします。じゃあ、みなさんにも自己紹介してもらおうかな。では君から」

 顔立ちのはっきりした女子だった。

「山科冴子です。千の端女子高の2年で、この制服を着るのが夢だったんです。よろしくお願いします」

 冴子はうれしそうに笑った。

 三塚が次に指名したのは、小柄でまだあどけなさが残る女子だった。

「戸村リカです。私も冴子さんと同じ女子高の2年生で、小さいときからこのお店が大好きで、両親に連れられてよく来ました。どうぞ、よろしくお願いします」