認知症と睡眠時間の長短に注目した調査は幾つかあるが、追跡期間が10年足らずなど、20年以上をかけて進行する疾患との関連を見いだすには、物足りないものが多かった。
しかし先日、英国のホワイトホール(日本の霞が関に相当する官庁街)に勤務する公務員をおよそ25年間追跡した大規模調査の結果が報告された。
同調査では、1985~88年の登録者のうち、50歳時点の睡眠時間が判明している7959人(平均年齢50.6歳)を追跡。参加者は全員が完全雇用で、正規/非正規雇用が混在する一般集団より心身の健康状態が良好であった。
登録時点で健康的な「7時間睡眠」は、3624人(女性30.9%)、6時間以下が3149人(同32.9%)、8時間以上は1186人(同38.5%)だった。
25年間の追跡期間中、521人が認知症を発症。発症時の平均年齢は77.1歳だった。
50歳、60歳、70歳時点の睡眠時間と認知症リスクとの関連を解析した結果、1日7時間睡眠をとっていた人の発症リスクが最も低く、逆に1日6時間以下の人は発症リスクが上昇。もう少し詳しくみると、中年期から7時間睡眠を継続している人に比べ、6時間以下の睡眠時間しか確保できなかった人は、認知症の発症リスクが30%上昇していたのである。
8時間以上の長時間睡眠や、一時期のみ短時間睡眠だった人でも発症リスクは上昇したが、7時間睡眠者との間で明らかな差はつかなかった。このほか、50歳時点の睡眠時間は認知症リスクと強く関係した一方、70歳時点の影響は弱かった。ため込んだ「睡眠負債」の解消を定年後に図ったところで、時すでに遅し、かもしれない。
ちなみに、アルツハイマー型認知症のリスク遺伝子として知られる「APOEω4」の有無で調整しても、睡眠時間と発症リスクとの関連は変わらなかった。
さて、日本人の睡眠時間はOECD先進7カ国中の最下位で、背景に通勤時間の長さがあるといわれている。賛否両論のリモートワークだが、睡眠時間の確保という意味では利点がありそうだ。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)