上司との関係にストレスを感じない人は、こうした上司⇔部下間の関係を、仕事を中心とする発注者⇔受注者の関係から、

(1)先生⇔生徒
(2)友人⇔友人
(3)親⇔(ある成長段階までの)子

 の関係性へと巧みに変化させている。要するに「公的な関係」から、より「私的な関係」へスライドさせているのだ。それぞれのケースを詳しく見ていこう。

(1)先生⇔生徒

 発注者⇔受注者の関係性を崩して、より親密で快適な関係性を構築するための第一歩は、「先生⇔生徒」の関係にシフトすることだ。

 仕事を受けたら、まずは稚拙でもよいので自分なりに考えた案を持って上司からのアドバイスをもらいにいく。そのアドバイスに真摯(しんし)に取り組んで改良し、それを上司に見てもらい再びアドバイスをもらう……この繰り返しを“あえて”するのである。このようなプロセスを経ると、発注者⇔受注者の関係は、いつしか先生⇔生徒の関係に変化する。

 先生にとって生徒の学力を上げることが仕事であるのと同じように、上司は自分のアドバイスを真面目に遂行してくれる部下の力量を上げなくては、と思う。さらには、自分のアイデアが部下の成果物に入り込むことになるから、出来が悪くてもその責任を部下に押し付けられない。成果物が良いものになれば、先生にとっては自分の投入したエネルギーのたまものであるから当然高く評価する。いずれにしても生徒が損をすることがない。

 人間関係の構築能力が高い人は、それと分からぬ間に「受注者」から「生徒」へと変身する。巧みに先生に甘えて、お気に入りになる。先生は生徒の得意不得意を理解するようになるから、生徒が不得手なことは頼まなくなる。その結果、仕事の成功確率はさらに上がる。

 一方、真面目で優秀な人であればあるほど、自分の力で考えて、人に頼らずに成果物を作り出したいと思うものだ。私は個人的にはこちらのタイプが好きだが、普通の会社では、生徒に変身する人のほうが明らかに評価されやすい。“ほうれんそう“を真面目に遂行しているというわけだ(本当は巧みに取り入っているだけかもしれないのだが)。

(2)友人⇔友人

 少し踏み込んで、発注者⇔受注者の関係から「友人⇔友人」の関係になるという転換もある。よりパーソナルな関係に持ち込むこの方法は、オフィスを離れたところで別の関係性を取り結ぶことによって生まれる。

 たとえば、ゴルフでも釣りでも好きなアーティストでもなんでもよいが、仕事とは関係のない領域で、仕事に関係のない人を交えて一緒に何かをやる。仕事後の飲み会や社内サークルなどでは、どこまでいっても上司⇔部下の関係だが、別の場所で別のアクティビティーを、第三者を交えて行えば、かなりモードが変わる。

 趣味などのコミュニティーの中では、上司と部下は会社にいるときのような明確な上下の関係にはならない。本来は上司の要望を聞く道理などまるでないが、そうはいっても同じ趣味を持つよしみで、もし部下がその分野での知識量や経験が上回っていれば、いろいろなことを教えてあげたり、クラブ活動の先輩のパシリをする後輩のように、多少のわがままを聞いてあげたりする(コンサートのチケットを一緒に購入するなど)と関係性は劇的に良くなる。

 それによって仕事に手心が加わることを期待するものではないが、ここで恩を売ったり貸しができたりして、友情のようなものが生まれれば心理的な距離が縮まり、その後のコミュニケーションの状況は部下に有利になる。