米国の「属国」・日本は隙だらけ
根本的に日本の政治システムがまずい

 日本はどうしても米国の「属国」感が強いので、鴻海やTSMCのような大国の間をしたたかに立ち回る企業カルチャーがなかなか育たない。巨大な中国市場でガッツリと稼いでおきながら、アメリカに何か言われると官僚に呼び出されてシュンとなる。そういう露骨な態度がまた中国につけ込まれる。

 経済政策でリーダーシップを取るはずの政治家も「保守」と言いながらも、アメリカに弱い。世界では「保守系政治家」は国益や国内企業の保護がまず第一なので、アメリカなど大国からの介入を嫌うのが普通だが、日本では「親米保守」という、愛国なんだか売国なんだかよくわからない人々が政治を動かしている。

 そうなると当然そのしわ寄せは経済、つまり民間企業に押しつけられる。

 井上氏も米中経済戦争によって日本政府、日本企業に対して、「些細なことでも安全保障と絡むリスクと考えるようにしなければ、両国に押しつぶされてしまいかねない」と警鐘を鳴らしている。

 まったく同感だ。われわれは「経済安全保障」と絡むリスクをもっと日本全体で真剣に議論していかなければいけない。

 では、半導体の経済安全保障を進めるうえで何が必要かというと、やはり「投資」という意見が多い。アメリカは半導体の国内生産回帰の実現に向けて500億ドル(約5.5兆円)を出す。EUも半導体を含むデジタル投資に2~3年で1350億ユーロ(約18兆円)以上を投資するという。かたや日本は、国内メーカー20社を集めた新技術開発に「5年で190億」、ポスト5G基金も2000億。その差は歴然だ。

 ただ、これも大事だが、本当に必要なことは別にあるのではないか、と個人的には思う。

 これまで日本が半導体産業にやってきたことや、コロナのワクチン政策を見れば明白だが、「やることなすこと日本を衰退させていく政策」が量産されていくという今の政治システムを変える必要がある。

 これだけ医療崩壊だなんだと大騒ぎをしているのに不思議と「国民皆保険を含めて現行の医療制度を危機に強くするように見直すべきではないか」「パンデミックに機能しない民間病院のあり方を考えるべきでは」と叫ぶ政治家は少ない。自民党はもちろん、野党議員の多くが全国津々浦々の選挙で医師会の世話になっているからだ。

 日本の経済安全保障的にも大きなリスクをもたらしている「日本の医療偏在」が放置されている原因をたどっていくと、落選を恐れる政治家の皆さんの「自己保身」に突き当たる。

 最近、政治家の皆さんは口を開ければ、「経済安全保障は大事だ」と勇ましく口にするが、まずは実は自分たちこそが最大の経済安全保障的なリスクだということを認めないことには、議論もへったくれもないのではないのか。

(ノンフィクションライター 窪田順生)