「自分の考えや打ち合わせ内容をその場で図解する。このテクニックがあれば、会議、ブレスト、プレゼンが劇的に変わる。考える力と伝える力が見違えるようにアップする」
こう語るのは、アートディレクター日高由美子氏。「ITエンジニア本大賞2021」のビジネス書部門グランプリを獲得した『なんでも図解ーー絵心ゼロでもできる! 爆速アウトプット術』の著者だ。「フレームワーク」や「キレイな絵」を一切排除し、瞬間的なアウトプット力の向上を徹底的に追求するワークショップ、「地獄のお絵描き道場」を10年以上続けている。複雑なことをシンプルに、難しい内容をわかりやすく。絵心ゼロの人であっても、「その場で」「なんでも」図解する力が身につくと評判になり、募集をかけてもすぐキャンセル待ちに。
本連載では「絵心ゼロの人であっても、伝わる図を瞬時に書くためのテクニック」を伝える。
オリンピック中止と緊急事態宣言の経済損失を比べる!
東京オリンピック・パラリンピックについて、さまざまな報道が毎日流れています。開催そのものへの疑問に加え、「水際対策どうするの? 観戦体制は?」などなど、心配ごとはつきません。
さて、東京オリンピックを開催しない場合、結局どれくらいの損失があるのでしょうか。
今回は「東京オリンピック・パラリンピック中止の経済損失1兆8000億円、無観客開催では損失1470億円」の記事をもとに、東京オリンピックにまつわる経済損失について図解してみました。
【参考記事・資料】※タイトルクリックで記事に飛びます
・東京オリンピック・パラリンピック中止の経済損失1兆8千億円、無観客開催では損失1,470億円
・3度目「緊急事態」で経済損失は…17日間で7000億円
まず、ポイントを箇条書きにする
情報量が多い文章を図解するときは、一度文中のポイントを箇条書きにしてみましょう。図解する箇所が明確になり、図に落とし込みやすくなります。
記事の前半、大会開催(海外観客を0とする)における経済効果について述べている箇所を図解してみましょう。
大会開催の経済効果は1兆8108億円
こうした変化によって、大会開催の経済効果がどのように影響を受けたかについては、2020組織委員会が2020年12月に公表した組織委員会予算V5(バージョン5)から推測できる。
そこで、東京都の試算、組織委員会の予算、そして海外観客の支出に関する筆者の試算に基づいて、現時点での大会開催の経済効果についてまとめたのが、(図表1)である。海外観客は受け入れず、国内観客は制限なく受け入れるケースである。その場合、経済効果の総額は1兆8108億円となる。大会が中止となれば、同額の経済損失が生じる計算である。海外観客の受け入れを止める決定をしたことで、60万枚のチケットの払い戻しが行われたとされる。ただしこの試算では、海外観客に販売されたチケットは、最終的には国内観客にすべて回るものとしている。
無観客開催の場合の経済損失は1470億円
国内観客をどの程度受け入れるかについては、今後の新型コロナウイルス感染の動向をみて、6月に決定される予定だ。現状では、国内観客数が全く制限されない可能性は低く、無観客開催となる可能性も相応に高いと考えられる。
そこで、国内観客半数受け入れケース、4分の1受け入れケース、無観客ケースでそれぞれ経済効果への影響を試算した。試算では、チケット販売の予想額900億円がそれぞれ半分、4分の1、ゼロになるとした。さらに、国内観客数の減少割合に比例して、(図表1)の観戦者の消費支出(海外観客の分は含まない)の額が減少するとした。
その結果を示したものが(図表2)である。国内観客数を完全に受け入れるケースと比較して、半数受け入れのケースでは、チケット購入及び関連消費の減少によって大会の経済効果は734億円減少する。また、国内観客を4分の1受け入れるケースでは、同様に大会の経済効果は1101億円減少する計算となる。さらに無観客のケースでは、1468億円減少する。
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まず、この文章のポイントを短文で書き出します。
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●海外観客は受け入れず、国内観客は制限なく受け入れるケースでの場合、経済効果の総額は1兆8108億円となる。大会が中止となれば、同額の経済損失が生じる計算である
●半数受け入れのケースでは、チケット購入及び関連消費の減少によって大会の経済効果は734億円減少する。
●4分の1受け入れるケースでは、同様に大会の経済効果は1101億円減少する
●無観客のケースでは、1468億円減少する。
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箇条書きから表を作る
次に、この短文をもとに表を作成します(「制限なし」「半数」「4分の1」「無観客」をそれぞれ「100%・50%・25%・0%という表記に揃えています)。下図を見てください。
さて、伝わりやすいかどうかを吟味しましょう。
記事では「観客が100%の時の経済効果が1兆8108億円」という表現なのに対して、観客が50~0%の時の表現が「100%時の額からの減少額」という表現になっており、そのまま表にしてもややわかりにくい印象になりました。
そこで、50~0%にも「経済効果」という項目を作り、計算した数字をいれてみました。下図を見てください。
最初よりも細かな説明となり、じっくり見ないと言いたいことが伝わりにくい印象です。これをもとに、直感的に伝わる図にしていきましょう。
横棒グラフと縦棒グラフでアプローチ
この内容を棒グラフに図解しました。棒グラフにはランキングや割合などを表すのに適した「横棒グラフ」と、時系列の変化を伝えるのに適した「縦棒グラフ」があります。下図を見てください。
今回の内容であれば、時系列ではなく経済効果の割合の比較になるので、Aの「横棒グラフ」が適しています。Bの縦棒グラフは、後述の緊急事態宣言の経済損失との比較のために、あえて縦に短いグラフにしています。
グラフは数字を打ち込んで表計算ソフトで作成したほうが正確に作成できます。手描きでのグラフは、推移や比較を直感的に伝えるためのものと考え、その上で数字での補足やテキストでの注訳をしっかり行いましょう。
こうして棒グラフにしてみると、経済効果1兆8108億円に対しての、観客数を減らした際の経済損失の「差」が明確に見えてきます。次は、緊急事態宣言による経済損失を見ていきましょう。