ある日突然、異動や転職などでリーダーを任された。
配属先は慣れ親しんだ場所ではなく、
すでに人間関係や風土、文化ができ上がっている
“アウェー”のコミュニティ(会社組織)。
右も左も分からない中、
「外から来た“よそ者”」の立場で、
いきなりリーダーを任されるケースも
少なくありません。
また、多数のエンジニアを率いる非エンジニアの
リーダーなど、自分の専門外の領域でチームを
まとめなければならない
「門外漢のリーダー」も増えています。
今の時代、「よそ者リーダー」がリーダーの
大半であるといっても過言ではありません。
そこで、新規事業立上げ、企業再生、事業承継の
中継ぎetc.10社の経営に関わった
『「よそ者リーダー」の教科書』の著者・吉野哲氏が
「よそ者」こそ身につけたい
マネジメントや組織運営のコツについて伝授します。
今回は、リーダーがおろそかにしがちな
「本当は大切にすべき人」についてお伝えします。
(構成/柳沢敬法、ダイヤモンド社・和田史子)
よそ者の味方は
一番近い「社外の人」
会社の仕事に関わっているのは、自社の従業員だけではありません。
例えばオフィスが入っているビルの警備・保守を担当する守衛さん、ビルに出入りしている宅配業者さん、清掃作業員さんなど、いわゆる「エッセンシャルワーカー」と呼ばれる人たちに支えられて会社業務は成り立っています。
会社とはそうした「縁の下の力持ち」の存在も含めての多国籍軍なのです。
中にはその意識が薄く、自社の人間にはあいさつしても守衛さんや清掃員さんの前は黙って素通りという人もいますが、それは大きな間違い。
仕事に関わるすべての人に敬意を持って接する──。
すべてのビジネスパーソンはそうあるべきでしょう。
特にリーダーは率先してその姿勢を見せ、従業員の範となるように心がけたいもの。
その基本となるのが、誰にも分け隔てなくあいさつするという毎日の行動です。
新天地に着任する初日。
出社していちばん最初に出会うのは、役員でも総務担当者でもなく、ビルのエントランスに立つ守衛さんや始業前に作業している清掃作業員さんであることが少なくありません。
彼らと顔を合わせたときからすでに、その会社のトップとしての仕事が始まっていると考えましょう。
そこで例えば守衛さんに「今日からこの会社でお世話になるので、よろしくお願いします」と明るく声をかける。さりげなく、通りすがりのタイミングでOKです。
こういうことは最初が肝心。タイミングを逸するとどこか気まずくなってしまいます。
守衛さんや清掃作業員さんは毎日のように顔を合わせることになる人。「今度の社長は気持ちのいい人だ」という彼らの印象が、マイナスに働くことなどありません。
よく「お掃除の人は社内事情に通じている」「守衛さんはよく人を見ている」と言います。
ドラマのようなことが実際にあるのかはわかりませんが、その人たちが“いちばん近い社外の人”であることは事実。そこでのコミュニケーションから、社内ではわからなかった何かしらの気づきを得ることもあります。
例えば守衛さんに「ウチの社員はちゃんとあいさつしていますか?」と聞くと、
「上位管理職の人は、みなさん、黙って素通りですね」
「今年の新人さんは、ハキハキしていて気持ちがいいですよ」とか。
清掃作業員の人に、「みんなトイレをきれいに使っています?」と聞くと、
「管理部のフロアはいつもきれいですが、営業部はけっこう汚れています」とか。
こうした情報も、従業員の資質を把握する要素になりえるのです。
さらに、私も経験がありますが、日頃から守衛さんを見知っておくと、業務時間外にオフィスに出入りしたいときなどに融通を利かせてもらいやすく、仕事がスムーズに進むといったメリットもあります。
ただ、そうしたことはあくまでも副次的なもの。大事なのは立場に関係なく、自分の会社、自分の仕事に関わるすべての人に公平に接するというトップとしての姿勢にあります。
ビルの守衛さんや清掃の方もチームの一員と心得る。その姿勢が会社という多国籍軍を“ワンチーム”にまとめていくマネジメントの土台となるのです。
※「よそ者リーダーとはどんな人か」「よそ者リーダーが身につけたい3つの心構えやマネジメントとは何か」については、本連載の初回記事も併せてご覧いただければと思います。
(次回は、心得ておきたい「外部コンサルとの付き合い方」についてお伝えします)