ある日突然、異動や転職などでリーダーを任された。
配属先は慣れ親しんだ場所ではなく、
すでに人間関係や風土、文化ができ上がっている
“アウェー”のコミュニティ(会社組織)。
右も左も分からない中、
「外から来た“よそ者”」の立場で、
いきなりリーダーを任されるケースも
少なくありません。
また、多数のエンジニアを率いる非エンジニアの
リーダーなど、自分の専門外の領域でチームを
まとめなければならない
「門外漢のリーダー」も増えています。
今の時代、「よそ者リーダー」がリーダーの
大半であるといっても過言ではありません。
そこで、新規事業立上げ、企業再生、事業承継の
中継ぎetc.10社の経営に関わった
『「よそ者リーダー」の教科書』の著者・吉野哲氏が
「よそ者」こそ身につけたい
マネジメントや組織運営のコツについて伝授します。
今回は「よそから来た、会社の事業をよく知らない
素人リーダー」にとって大切な
「2つの意識改革」ついてお伝えします。
(構成/柳沢敬法、ダイヤモンド社・和田史子)
過去のキャリアはリセットすべし
社長を任されて新天地に着任したのはいいけれど、その会社の事業がまったく未知の分野だった、というのはよくあることです。
その事業のことはほとんど何も知らない。
でもリーダーとしての力量を買われ、社長として会社を引っ張っていかなければならない──。
「よそ者」で「凡人」で、しかもその分野の「素人」。そんなハンディを背負った“三重苦”の新社長に求められるのは、
「これまでのキャリアや成功体験へのこだわりをゼロクリアする」
そして
「謙虚になって、ゼロから学ぶ」
という自身の意識改革です。
仕事のキャリアが長い人ほど、自分が積み重ねてきた実績や成功体験を心の“拠りどころ”にしているもの。しかし、そこに大きな落とし穴があります。
「自分は何度も成功してきた」というプライドやおごりが勘違いとなって、ゼロから教えを請うという謙虚な姿勢の足を引っ張ってしまうことがあるのです。
「過去の自分の功績を評価されて社長になった」ことと、「社長の仕事に過去の経験を活かす」ことは、まったくの別物と考えてください。
私はかつて百貨店に勤務していた際に、系列のファイナンス会社に経営企画の担当課長として出向したことがあります。グループ会社とはいえ、それまでのバイヤー業務からファイナンス事業というまったく畑違いの分野の会社に、しかも経営に関わる役職として出向くことになったわけです。
しかし当時の私は、恥ずかしながら経営についても金融についても知らないことだらけ。しかもその会社には金融関係をはじめとした他企業からの転籍者も多く、ほぼ素人同然だった私は、そのことでも非常に大きなアウェー感を覚えたものです。
ところが、素人同然だったことが功を奏しました。
「何も知らない」という現実が、良い意味での開き直りにつながったのです。
バイヤーとはまったく違う金融の世界では、自分の過去の経験がそのまま通用するはずもない。ならばいっそのこと“まっさら”な気持ちで教えを請うて勉強し、新しい知識を吸収してやろう。「知らないんだから、教えてもらって勉強するしかない」と、肚を括ることができたのです。
こちらが出向者であろうが上司だろうが社長だろうが、「教えてほしい」という謙虚さがあれば、ほとんどの人は「何にも知らない」ことを(少なくともあからさまには)バカになどしません。
むしろ、そこから信頼関係が生まれることもあります(たしかに中には、いきなり金融用語を多用して矢継ぎ早に質問してくる意地悪な? 銀行出身の人もいましたが……苦笑)。
キャリアを捨ててゼロになることが新しい学びと成長につながったのです。この経験は私自身の大きな糧となりました。