ある日突然、異動や転職などでリーダーを任された。
配属先は慣れ親しんだ場所ではなく、
すでに人間関係や風土、文化ができ上がっている
“アウェー”のコミュニティ(会社組織)。
右も左も分からない中、
「外から来た“よそ者”」の立場で、
いきなりリーダーを任されるケースも
少なくありません。
また、多数のエンジニアを率いる非エンジニアの
リーダーなど、自分の専門外の領域でチームを
まとめなければならない
「門外漢のリーダー」も増えています。
今の時代、「よそ者リーダー」がリーダーの
大半であるといっても過言ではありません。
しかし、「よそ者リーダー」がどのように
チームを率いるべきかについては、OJT(現場で
やりながら身につける)しかないのが現状でしょう。
そこで、新規事業立上げ、企業再生、事業承継の
中継ぎetc.10社の経営に関わった
『「よそ者リーダー」の教科書』の著者・吉野哲氏が
「よそ者」こそ身につけたい
マネジメントや組織運営のコツについて伝授します。
今回は、よそ者リーダーが陥りやすい、
「焦りによる失敗」ついてお伝えします。
(構成/柳沢敬法、ダイヤモンド社・和田史子)

「よそ者リーダー」の教科書、著者の吉野哲氏による、「スピード違反に注意」とは Photo: Adobe Stock

「よそ者」リーダーのみなさん、
“スピード違反”には要注意

親会社からの出向や外部からの派遣で着任する“よそ者社長”によくあるのが、
「社長を任せられた期待に応えなければ、申しわけない」
「できるだけ早く結果を出さないと、失望される」

と気がはやって功を焦り、“オーバースピード”になるというケースです。

ファンドや親会社から再建を託されている場合は、「早く成果を出せ」とせっつかれることもあるでしょう。

閉塞した組織に新風を吹き込み、イノベーションを敢行する──自分が背負っているミッションを理解している人ほど、いざ経営の現場に立つとアクセルを踏み過ぎてしまう傾向があります
しかし、焦りは禁物です。

右の図を見てください。「取り組みの成功度合い」を縦軸に、「取り組みにかける時間」を横軸にして「成功とスピードの関係性」を表したものです。

「よそ者リーダー」の教科書の37ページより引用書籍『「よそ者リーダー」の教科書』37ページより引用

最短距離で成功に到達するSライン
最初から全力でアクセルを踏み、トップスピードで一気に成功まで最短距離で到達するケース。もっとも理想的ですが、これが可能なのは余程の幸運に恵まれた人か、ひと握りの天才的なカリスマの仕事くらいでしょう。

適度なスピードのAライン
適度なスピードで、時に修正を入れながらPDCAをしっかり回し、早期に成功に結び付ける理想のパターン

途中で失速するBライン
Sライン同様に、最初からトップスピードで飛ばすのですが、途中で失速して失敗するケース。飛行機が離陸時に上昇角度を大きく取りすぎて失速するのと似ています。功を焦って現場の遂行能力を無視し、一人で暴走する社長が辿りやすいのがこのラインです。

時間かけすぎCライン
リスクを恐れて慎重になりすぎ、時間をかけすぎて、なかなか成功にまで到達しないケース。社長自ら「この問題は対応しながら進める」と決めたのに、些細なことでも心配になって「あれはどうなっている?」「これはどうした?」と、いちいち現場に聞いてくる。管理部門出身の人間が子会社社長になった際に、時々見受けられたパターンです。

よそ者リーダーが目指すべきは、もっともバランスの取れた「Aライン」なのですが、
「一刻も早く結果を出さなければ」と焦るあまり、スピード感ばかりを過剰に重要視して、結局失速するという「Bライン」を辿ってしまうケースが少なくありません。

もちろん経営トップにとって、スピーディーに仕事をするという意識、アクセルを踏むべきときは機を逃さず、一気呵成に推し進める姿勢は非常に重要です。

しかし、スピードを出すことばかり意識しすぎると、大きくつまずいて転倒する、失速してエンストする、進むべき道を間違える、途中で息切れして立ち往生するといったリスクが大きくなることも、認識しておかなければなりません。

企業経営や組織のイノベーションにおいて、スピードと成功は必ずしも比例するものではありません。むしろ、スピードの出し過ぎも、スピードの出さな過ぎも、ともに経営にとってマイナスに働いてしまいます。

何より重要なのは周囲の声やプレッシャーに惑わされず、地に足をつけて、自分の力量と会社の状態のバランスを十分に把握した上で、適切なスピード感を持って取り組むことなのです。

※「よそ者リーダーとはどんな人か」「よそ者リーダーが身につけたい3つの心構えやマネジメントとは何か」については、本連載の第1回も併せてご覧いただければと思います。

次回は、よそ者リーダーに求められる「リーダーとしての資質」についてお伝えします)