日本で検査キットの活用が進まない理由

 そんな調子で、さまざまな場面で活用されている簡易検査キットを、日本でも遅ればせながら取り入れるべきだ――。

 尾身会長の提言は極めて真っ当なもので、すぐに政府も病院や高齢者施設を対象に最大800万回分を配布予定だと決定。早ければ5月中にも始めるというニュースがあったが、6月9日現在、この計画が本格的にスタートしたという話は聞かない。

 自治体や企業がそれぞれ独自の取り組みとして、抗原検査キットの無料配布をスタートさせているところもあるが、「国家プロジェクト」としての進捗状況としては、国民が実感できるものはない。ワクチン同様、他の先進国の足元にも及ばない状況なのだ。

 では、感染拡大を防ぐためには大変な重要な鍵となると尾身会長も強く主張した「抗原検査キットの活用」が、なぜなかなか思うように進まないのか。

 ワクチン確保競争で敗戦したような、日本の「お役所仕事」の問題も大きいが、実は日本の医療界が「抗原検査キット」に対して、かなりネガティブな偏見を抱いているということも無関係ではない。

 先ほど紹介した海外の大規模イベントのように、参加者に抗原検査キットを配布したイベント運営をサポートする「医療科学を用いた経済活動継続のための検査研究コンソーシアム」という取り組みがある。コンソーシアム事務局の日比谷国際クリニック鈴木篤志氏はこのように述べる。

「医療従事者の多くは、抗原検査と聞くと、非常に精度が低いという印象を抱きますが、実はそれはコロナ禍になった当初のイメージが強い。今は精度がかなり上がってきており、PCR検査とほとんど変わらないものもあります」

 実際、「医療科学を用いた経済活動継続のための検査研究コンソーシアム」で用いている米アボットの抗原検査キット「PanbioTM COVID-19 Antigen ラピッド テスト」はPCR検査との陽性一致率91%以上、陰性一致率99%以上。厚生労働省から保険適用も受けている。

 検査は本当に簡単で、綿棒を鼻の穴の入り口近くで回転させて粘液を取り、検査液が入ったチューブに入れる。そしてこのチューブから検査液を、カセットに数適たらす。10分ほどすると線が浮かび上がってくる。1本だと陰性。2本だと陽性だ。筆者も実際にこの「PanbioTM COVID-19 Antigen ラピッド テスト」で検査をしてみたが、あっという間にできてしまった。コンサートやライブ会場の入場経路で行うようにすれば、列に並んでいる時間でできてしまうレベルだ。

 実際、このような検査キットを活用したイベントも国内で徐々に現れ始めている。

 例えば6月3日から6日の間に開催された日本ゴルフツアー選手権森ビル杯は、2020ー2021シーズンでは国内ゴルフ大会では初となる一般ギャラリーの観戦をおこなった大会だったのだが、それを可能としたのは抗原検査キットである。

 ギャラリーは全入場者を自家用車に限定。入場する際に抗原検査キットをドライブスルー方式で渡し、各自が車内で検査をする。そこで陰性だった人だけが車を降りてコース内へと入場できるという仕組みだったのだ。